まぼろしフランスパン
読みもの「まぼろしフランスパン」
家族で街に出かけた帰りの夜。
(田舎なので街に出かけるのはイベント)
明日の食パンを
切らしていることに気づき
駅の並びにある
パン屋さんに飛び込み
カゴの中にたくさん立ててあった
フランスパンを買った。
*
フランスからボンジュールな
フランスパン。
(この場合はボンソワールか)
今日日はもう
「フランスパン」ではなく
「バゲット」と呼んだ方が
いいのかもしれないが
ここはひとつ
フランスパンと表記させてもらう。
*
フランスパンは
長い紙袋にスコンと入れられた後
ご丁寧に専用ビニール袋に包まれ
手渡された。
娘はそれを抱えて駅構内を歩く。
*
お恥ずかしながら。
昭和な私は
フランスパン=オシャレ
という謎の刷り込みから
抜け出すことができない。
なんでもかんでも
ヨーロッパのもの=オシャレ
みたいになる思考回路は
そろそろ卒業したいのだが
ついね。
つい、出ちゃうのである。
私はこらえきれず
「フランスパンを抱え街をゆく少女」
であるところの
娘の勇姿を
スマホのカメラに収めた。
「なんで写真?」
いぶかしがる娘。
ああ、
若者には分かるはずもない。
*
強いて言うなら
そのフランスパンは
紙袋から顔を覗かせて欲しい。
でも、
日本国内において
私は剥き出しのフランスパンを
抱えて街を歩く人を見たことがない。
袋から
フランスパンが
こんにちは(ボンジュール)しているのは
この日本では幻なのだ。
実際にフランスパンを持って
駅を歩くと分かる。
剥き出しより
包んでくれた方が衛生的だし
自宅まで無事に持って帰れる安心感がある。
剥き出しでは
途中でトイレに行くことも困難で
まずいことになるかも。
なんだかんだ
包んでもらう方がいいよね…
と日和った夜。