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まぼろしフランスパン

読みもの「まぼろしフランスパン」


家族で街に出かけた帰りの夜。
(田舎なので街に出かけるのはイベント)

明日の食パンを
切らしていることに気づき

駅の並びにある
パン屋さんに飛び込み

カゴの中にたくさん立ててあった
フランスパンを買った。



フランスからボンジュールな
フランスパン。
(この場合はボンソワールか)

今日日はもう
「フランスパン」ではなく
「バゲット」と呼んだ方が
いいのかもしれないが

ここはひとつ
フランスパンと表記させてもらう。

フランスパンは
長い紙袋にスコンと入れられた後
ご丁寧に専用ビニール袋に包まれ
手渡された。

娘はそれを抱えて駅構内を歩く。

お恥ずかしながら。

昭和な私は
フランスパン=オシャレ
という謎の刷り込みから
抜け出すことができない。

なんでもかんでも
ヨーロッパのもの=オシャレ
みたいになる思考回路は
そろそろ卒業したいのだが

ついね。
つい、出ちゃうのである。

私はこらえきれず
「フランスパンを抱え街をゆく少女」
であるところの
娘の勇姿を
スマホのカメラに収めた。

「なんで写真?」
いぶかしがる娘。

ああ、
若者には分かるはずもない。



強いて言うなら
そのフランスパンは
紙袋から顔を覗かせて欲しい。

でも、
日本国内において

私は剥き出しのフランスパンを
抱えて街を歩く人を見たことがない。

袋から
フランスパンが
こんにちは(ボンジュール)しているのは
この日本では幻なのだ。

実際にフランスパンを持って
駅を歩くと分かる。

剥き出しより
包んでくれた方が衛生的だし
自宅まで無事に持って帰れる安心感がある。

剥き出しでは
途中でトイレに行くことも困難で
まずいことになるかも。

なんだかんだ
包んでもらう方がいいよね…
と日和った夜。






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