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連作「どちらかが死ぬ」

どちらかが死ぬ

駅だった 会いたくなくて会いたくてたくてきみから声がかかった

すずやかにビジネススーツに身を包むきみに肩先揺らされている

陽の声を届けてくれることだけが変わらなかった どうしてばかり

宵闇に透けるパーカー 立ってれば寄せては返すラッシュのままに

深淵の目を振り払い自宅へと向かう自宅に向かうほかなく

探偵はその頃スタバで新作をふたくち飲んで雲間を見てた

通知音で分かってしまう かずかずのアプリひしめく雑感のなか

きみからのLINEは端的だったから 絵文字含めずただ打ち返す

アイコンは昔の 便利な世の中だ履歴も記憶もさかのぼれない

夏風のなかに予定があらわれて揺れている 産毛みたいにそよぐ 



踏み場ない部室に余白を探してるぼくと踏んでるきみがいたこと

原稿の束に腰掛けないでもうそんなところに夏の頂点

走るのが面倒くさくてここに来て寝床だったのかもしれないが

ときどききみは詩を書いていた詩を書いていると主張をするように詩を

〈文芸〉の表札からからドアに触れ二人っきりの夏の根城は

探偵はそのとき探偵になることを考えていた 風は薫って

とにもかくにも原稿用紙を埋めること いまもむかしもぼくはそれだけ

ぶっとんだきみを見るたび心臓に知らない花のはなびらが降る

気配だけできみって分かるぐらいきみはきみだったのにきみはいま 寝る 



カレンダー二、三度見れば締め切りを予定としてるひとなのだ ぼく

たったひとつの違和感へゆく選択肢 パーカーしかなくパーカーを着る

ドトールで落ち合うときも群衆のなかからぬっときみは手を振り

「作家を目指しているんだ」なんて言えなくて「書いているんだ」とだけ「いちおう」

サラリーマンはいつでも同じ響きの語 ストロー啜るだけの口たり

頷いてまた会うことになっていた ひかりに漱がれつつゴミを捨て

探偵のピアスが揺れて晩夏(おそなつ)の夕陽遅れてかすかこぼれる



真っ黒なビルに吸われるオチなのに光を浴びてしまって俺は

追いかけるチカラが君にはあるなんて俺にはまったくないなんて 鳥

要領が悪くてごめんなさいと言う本心わずかにあるのがイヤだ

言葉の余韻に惹かれてかつてそこにいた 行間なんて埋めてしまった

畜生に詩は要らないな 荒波の外には君がいる残業を

憧れを恐れてビッグ・エコーにて会えばいつかのパーカーを着て

加減せず歌えることが心地よくどこかで腹を立てている宵

90点確定してすぐスキップを押す憧れを伺いながら

音程がなってないけど歌詞すべて覚えていそうだって なぜだか

探偵という自覚などつゆ持たずスマホ片手に尾行調査へ 



パズドラのドロップゆるく持つゆびが震えて(ぼくは、きっと作家に)

サー残の光に肩から入りつつ思えば(君は、きっと作家に)

新人賞に応募できずに終わる日の終わりにひとつの着信がある

福引で温泉旅行が当たったと社員よりすぐ君に電話を

ちちははに訪れられてフレーズで殴られ蹴られ転がっていた

身を粉にすると言うならきゅるり擦り果てて目だけで生きているようなもの

探偵はブレスレットをまた増やし知ったかぶりで闇夜を歩む 



会えないと会わないことがない交ぜになって誰かが図書館へゆく

許せないものの核には彼がいて光まみれでぐちゃぐちゃになる

「未解決事件」と窓に打ち込んであるだけ実行可能を借りる

行間に暗い視線が落ちたこと誰も知るはずなく 自動ドア

縄になるものをリュックに差し入れてそのまま長く触れていた午後

もう何も伝えたくない 待ち合わせ場所でたがいに手を振ったこと

どちらかがこれから殺す部屋のノブの銀はふたりを捻じ曲げている

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