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あたらしい魔法、あたらしい眼鏡

高校生の時に、タイにホームステイしました。
わたしが以前通っていた公立小学校が、タイのバンコクにある小学校と姉妹校で、交流プログラムの一環のプロジェクトでした。

その前の年に、まずはタイの女の子が一人わたしの家にホームステイに来て、翌年に日本の子どもが行ったのです。
わたしは兄弟枠で参加して、当時小学校1年生の妹と行きました。

たくさんの思い出や驚きのある経験でしたが、言葉が魔法である、と実感したことがこのホームステイ中にありました。

1週間ほどの滞在中、2日ほどはホテルに泊まりました。
そのホテルの部屋にタイの女の子が遊びに来ていて、
「お母さんに電話する」と部屋の電話で話していました。
電話が結構長くて、わたしは次にみんなで移動する集合時間が近づいているのが気になりましたが、女の子は一向に電話を切る気配がありません。

英語で、
「急いで!もういかなくちゃいけないから」と
いいましたが、伝わりません。
単語や言い回しをかえても伝わりません。
もう今すぐに部屋を出ないと遅れます。

その時とっさに、前の日にホームステイ先のお家でお母さんが子どもに出かける前に言った言葉を思い出しました。

たぶんあれは、急いでと言っていた、と思って、思い切って、その言葉を言ってみました。
「ワーイ、ワーイ!」
すると女の子はハッとした顔をして、すぐに電話を切りました。

その時に感じた驚きと喜びは、まさに魔法でした。

数日前のことです。
7歳の子と犬の散歩に行きました。
普段いつも歩いている近所の慣れた道です。

子どもがふいに、
「あ!鉄砲ユリだ!」
と言ってかけていきました。
道の脇に鉄砲ユリが立ち枯れていて、そのなかにたくさんの種が入っていました。

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子どもは1週間ほど前に、通っている学校で植物観察家の鈴木純さんの授業を受けました。
その日以来、彼の言葉にしばしば植物の名前が出てくるようになりました。

それもお花屋さんで売っているような植物でなくて、
身近などこにでもあるような野草や雑草です。

庭中のカタバミを発見して、それを使って家中の十円玉をぴかぴかに磨いてくれました。

あたらしい眼鏡を彼はかけたのだな、それによってあたらしい言葉を獲得したのだな、と思います。

言葉の魔法を使うためには、その前にまず今までと違うあたらしい眼鏡を
かけてみることが大切だなとタイで経験したこと、子どもとの散歩の一コマから気づかされました。

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