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ボストン美術館展at東京都美術館 全感想

前置き

 東京都美術館にて、2022年7月23日〜10月2日の会期で行われている「芸術×力 ボストン美術館展」に行ってきました。
 この展覧会は出展されているものがそれほど多くありませんでした。また、会期も半ばの平日に行ったこともあり、大混雑というわけでもありませんでした。そのため、おおむねじっくりと、自分の見たいように見ることができました。メモも十分に残せたので、記念に全感想をまとめようと思いました。
 公式サイトは最初に問答無用で演出を見せてこようとするので、ストレスが溜まりやすい人には注意が必要です。

 したがって、↑こちらではなく……

 こちらをご覧になるとストレスフリーです。そしてこの感想は↑のリンク先にもある「作品リスト」に沿って書いていくので、お付き合いくださる方は、どうぞお手元においてご覧になってください。

感想

1 ホルス神のレリーフ

目のすべすべとした感じと首元に刻まれている羽毛表現の手作業感のギャップがいい。目は本当にすべすべしていそう。

2 ペンダント

古代ならではの素朴なデザインがいい。ヒエログリフで神を表しつつ、人間の姿でもあるという多義的なデザインもステキです。何よりもシンプルに神を表しているところによさを感じます。

3 地球儀型の杯

地球儀のような見た目ですが、横半分に分かれて杯になるそうです。16世紀のもの。地球、わかってしまったな〜wというような驕りの雰囲気に時代を感じられるのがいい。土台にはとうがらし? のレリーフがあり、そこにも時代を感じます。とうがらしが宝物だったころのものなのでしょうか。

4 メアリー皇女、チャールズ1世の娘

ヴァン・ダイクによるかわいい女の子の肖像画。ドレスの質感はなんかペラく見えます。サテン? 17世紀。

5 戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像

とても大きな肖像画。人物と豪華な衣装が、まるで浮き上がってくるかのように、立体的に見えて迫力を感じました。しかし、描かれている人はただのおじさんだな……と感じました。どんなに衣装がよくても地位が高くても英雄であっても人間である以上仕方ない。

6 メーワールのラージャ、ビーム・シングの死後の肖像

ムガル帝国時代の典型的な描き方らしいのですが、「死後の肖像」の背景が、どこまでも広がる青空と草原なのがとてもいい……。泣ける作品。

7 龍虎図

龍が陰、虎が陽?(逆かも)で、龍虎が争うさまは陰陽の調和を表していたそうです。「陰陽の調和」ってバトルでもいいんだなっていうのが目からウロコでした。

8 龍袍

清の乾隆帝の時代の豪華な衣装。波間から龍が昇っているさまが刺繍されています。私の注目ポイントは波間にそびえたつ建物(たぶん建物)。すごくサイバーパンクっぽいというか、未来的に見えました。誰かに共感されたい。

9 架鷹図

きれいな鳥の絵だな〜という感じ。個人的に花鳥図はデザインとしてはどれも素敵だし、「絵、うま〜」と思うのですが、作品を前にしたときにあまり「きれいだな〜」以上の受け取り方をするのが難しいです。個人的な感想です。

10 獣帯鏡

日本の古墳時代の銅鏡。7つの突起が円をなして造形されているデザインなのですが、この突起がまさかチクビを表しているとは思いもよりませんでした。瑞獣をあしらったデザイン? らしいですがどこがそうなのかよくわからず。この鏡自体が7つのチクビを持つ獣を表しているということ?

11 太刀 銘長光

刀身が透き通るガラスのように見えて綺麗でした。

12 短刀 銘来国俊

刀の部位名称に詳しくなくてうまく説明できないのですが、刀身の下のほうに彫ってある線がかっこよかったです。

13 平治物語絵巻 三条殿夜討巻

絵巻物の前にはどうしても行列ができますね。ここはあまりじっくりは見られません。火事のさまがすごい迫力でした。

14 寛政内裏遷幸図屏風

この前MOA美術館で洛中洛外図屏風屏風を見たときも思ったのですが、町にモヤがかかっているのはなんなんでしょうか? デザイン上の理由? 描くのが面倒だから? 当時の京都はいつも金色のモヤがかかっていたから?

15 玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使

14世紀の宗教画。のっぺりとしているのがクラシックでよい。中世っぽい。ルネサンス以降? の「絵、うま〜」と思わざるを得ない絵画よりも、信仰に対して真剣な感じがなんとなく私はこういうほうから強く感じます。なんとなくですが。

16 十字架にかけられた二人の盗人のいるキリスト哀悼

クラーナハ(父)。聖書準拠なのはわかりますが、背景に十字架にかけられた二人の盗人がいるのが、なんだか奇妙な方向で情報量を増やしている印象です。でも、実際に悲劇の場面は、遠くから見るとおかしな風にみえることもあるのかもしれません。悲劇はしつらえられた場面で起こるわけではないので。

17 祈る聖ドミニクス

遠くから見て「エル・グレコっぽい〜」と思ったらエル・グレコでした。画風が一貫しているんですね。描かれているのは聖人とはいえやはり人なので、おじさんだなと思いました。

18 三官図(地官・天官・水官)

3枚組。中国のあの世はお役所とかあってけっこうこの世っぽいですね。個人的にはけっこう好きな世界観です。地続きな感じがして。「地官」の絵に描かれていた正面顔の女性がかわいい。

19 托塔羅漢図

粗末な身なりをした賢者が、贈られたとおぼしき豪華な宝塔を手に持ち、金持ちに跪かれている絵。これは発注者の金持ちの意志を反映しているとみられる、ということが書いてありました。その発注の意図はどういう感情なのかけっこう考えてしまいます。私には金持ちを皮肉っているように思えましたが、発注者にはそうは思えなかったのでしょうか?

20 華厳経(二月堂焼経)

これはよいです。本当に美しいです。全員見てほしい。本当によいです。一目見て、「うわ! 良い!」って口から出そうになりました。きれいなお経の文字の背景で夜の山が燃えているように見えます。これはそういう絵が描いてあるんだと思ったんですけど、さっき調べたら、これは火事のときに発見されて、ちょっと焼けちゃったんだそうです。つまり山が燃えているように見える部分は紙が焼けて偶然できた絵ってことです。これが仏の力か? あまりにも美しい。

21 大日如来坐像

「やさしい」「まるい」「とろんとしている」というのが感想。昔の日本人はけっこう写実的? な彫刻をしていると思うのですが、だからこそこういうやさしくてつるつるしていそうな彫刻を作ったのには、表現したい優しさみたいなのがあったのかなあと思わされます。

22 罪福報応経(中尊寺経)

金と銀で1行ごとに書き分けられた文字も美しいし、最初にある絵もとてもきれい。とても美しい!!

23 春日宮曼荼羅図

だからこのモヤはなんなんでしょうか? さまざまな季節の花を同時に咲かせて楽園感をだしているというコンセプトはけっこう好きです。

24 蘭石図

ミニマルでかっこいいのですが、あまりそれ以上の感想が出ません。インテリアにいいかも。

25 山水図

かっこいい。静かな水面の感じが広々としていてよい。松の枝のつき方には風も感じます。

26 灰色の枢機卿

これは風刺画なのでしょうか? 聖書を読みながら階段を降りているだけの修道士に、豪華な身なりをした人たちが一斉に頭を下げている絵。シリアスな漫画の一場面のような魅力があります。灰色の枢機卿の初登場シーンの見開きとか使われていてほしい。

27 1902年8月のエドワード7世の戴冠式にて国家の剣を持つ、第6代ロンドンデリー侯爵チャールズ・スチュワートと従者を務めるW・C・ボーモント

タイトルで全てが説明されています。立派なおじさんの絵です。

28 『オーストリアおよびドイツの宮殿と庭園選集』

本です。よくわからないんですけど小口の装飾が気になりました。

29 オラニエ公の誕生日の祝すハウステンボスの舞踏会

版画。新聞っぽいです。おそらく、油絵とかで立派な作品にするよりも、こちらのほうが舞踏会の豪華さが伝わるのではないでしょうか。情報量が抑制されていてなんだかかっこよくも見えます。それにたくさん書きましたが人間ってどんなに立派に描いても人間なので……。

30 花瓶(「マルメゾン城の植物のセルヴィス」より)

31 平皿(「マルメゾン城の植物のセルヴィス」より)

セーブルの磁気。ふつうにみえます……。

32 マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ

私は宝石に心が惹かれない女なのですが、きれいな色だなと思いました。エメラルドは緑ですが、翠という漢字を当てたくなるような。

33 モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング

人物の頭身が低くてかわいい。そしてサングラーム・シングは同じ絵の中に複数回描かれているような……? 情報の伝え方がおもしろい。

34 輿に乗るムハンマド・シャー

植物と空の描かれ方が好きです。植物はいろいろな種類の木が1本ずつ植わっているように見えました。タッチも相まって博物画の図譜みたい。

35 戯曲人物青花梅瓶

たぶん描かれている絵をよく見たらけっこう面白かったような気がします。瓶はいいや……みたいな気持ちが働いてしまって「これ面白いかも」と思ったけどじっくり見るのが面倒になって離れてしまいました。

36 韃靼人朝貢図屏風

なぜかゴーストオブツシマを思い出しました。

37 ジャハーンギールの大使カーン・アラムとシャー・アッバース

場面が描かれているけど絵の外にも額縁のように絵が描かれている? どっちのシーンを見るのかなあと不思議に思いました。

38 マクシミリアン1世の凱旋車

デューラーの木版画。絵巻物みたい! 描かれているのは古代の神々のように見えるけれど身内の人々でしょうか? かっこいいのですが、ここまでで「かっこよく描かれていても人は人だな」という気持ちを抱いてしまっていたので、どういう気持ちでこんなにかっこよく描かせたのかとは思いました。

39 水差しと水盤

製作者?が「逆のL字の製作者」「MにPを重ねたモノグラムの金工師」とあり、「それは製作者不詳とは違うのか?」と思いました。銀食器興味ないなあと思っていたのですが、水盤の彫られた紋様がギラギラ光っていてちょっとすごかったです。プリズムみたいでした。

40 ポタオイユと受け皿

食器はあんまり……。ふつうにみえます。もはや。

41 壺

セーヴルの壺。金色の時に鳥が飛んでいるデザイン。この金色は微妙です。絵もなんだか貼り付けたように見えました。

42  サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂、サン・マルコ沖から望む

私のメモには「いいね〜」とだけ書いてあって、どんな絵だったのか全く思い出せません。風景画ってそういうところがあるかもしれないというのは、最近少し感じていることです。見ている間はとても好きで、絵葉書かってしまったりするのですが。

43 ギター

18世紀のギター。横から見たボディが現代のギターとは違って面白いです。装飾も豪華。

44 ネックレス

45 メアリー・トッド・リンカーンのブローチ

46 メアリー・トッド・リンカーンのイヤリング

ふーんって感じでした。

47 日本風のブローチ

宝石で紅梅図を表現したもののようでしたが、あまりにも古臭すぎるデザインだと感じました。

48 雪山楼閣図

照明の関係もありぼんやりとしか見えず、かなり怖いという印象。

49 詩経書画巻(小雅六篇)

絵がよい。とメモに書いてありますが忘れました。

50 三十六人家集 伊勢集(石山切)

これはおしゃれです。ポストカードみたいな感じなのでしょうか。

51 吉備大臣入唐絵巻

今回の展示の大おすすめ! 中世の漫画という感じです。ストーリーは、天才・吉備真備が中国に行くが、現地でその天才っぷりを危険視され、一度入ったら出られないと言われる高楼に幽閉されますが、かつてここで客死した阿倍仲麻呂の鬼が現れ、二人で超能力やイカサマを使って降りかかる難を逃れる、というもの。
まず、この高楼がヤバいです。階段が急すぎます。確かに登るのはできても、降りるのはかなり危険そう。一度入ったら出られないってそういう意味なの?
ストーリーにもツッコミどころが。囲碁の勝負を宣言され、多分負けるとヤバいんでしょうが、囲碁のルールを知らない吉備さんは戦いの日まで高楼の天井を碁盤になぞらえて脳内練習。そして当日は隙をついて石を一つ飲み込んで勝ちます。悪じゃん。
私が面白いと思ったのは、表現方法にもあります。ふつう、漫画は視点がコロコロ移動します。前述の、囲碁を脳内練習するシーンであれば、「高楼の天井」が描かれているのが自然に思います。しかし、この絵巻は、舞台セットがいくつか設定されていて、シーンによってそこを移動する形で描かれているようです。よって、そのシーンも、高楼の外観と、窓から吉備さんの天井見上げている顔がちょっと見えるかな、という感じで描かれています。漫画みたいと思った後でそれに気付いたので、ちょっと気になり、面白く感じました。舞台となる建物や場所は何回も同じものを描いていることになるので、現代のCGみたいにモデルを流用できないことを考えると、逆に面倒な感じはします。
人々の表情もとても豊かに描かれていて、見応えがあります。

52 楊貴妃・牡丹に尾長鳥図

狩野探幽の3枚組の絵。これもきれいだな〜で終わりそうになりましたが、1本だけ、花の中で蕾のついた茎だけが妙に鮮やかな黄緑色で、それが異彩を放っているように見え、気になりました。

53 老子・西王母図屏風

歴史を感じます。でも描かれている物語を私は知りませんでした。

54 能面 阿古父尉

たぶん普通の能面です。頬骨が高く出ているのが目に止まります。どことなく韓国人のおじさんを思わせる顔立ち?

55 厚板 萌黄地牡丹立涌模様

厚板って衣装のようです。大きな花柄で可愛いけど男物なんですね。

56 孔雀図

文人大名・増山雪斎の絵。孔雀の羽の描き込みがすごいです。鳥の絵はふーんで終わりがちと書きましたが、これはけっこう見応えを感じました。しかし、寄り添う2羽の孔雀は両方オスのように見えます。

気付いたことまとめ

・どんな立派な人も、人は人
・ぱっと見がきれいな作品は、印象が心に残りにくい(でも、だからこそ手元に置いておきたくなるのかもしれない。所有する価値があるのかもしれない。何度も見てきれいだと心を癒すことができるから。逆に、瞬間的に強い印象やメッセージを与えるものはその瞬間に役割を終えてしまうのかもしれない。それを所有し、飾ることの威力はもしかしたら過剰かもしれない)
・中世の絵巻物が面白い、とても気になる
・皿にはあんまり興味がない
そんな感じです。じっくりといろいろな作品を見られたのは面白かったです。私の勉強不足や思索の浅さによって、十分に味わえなかったところもあるかもしれません。というわけで、これからも、勉強したり、いろいろなことを考えたりしていきたいです。そしてまたいつかこれらの作品に巡り合うことができたら楽しいだろうな。
おわり。

P.S. このあと国立西洋美術館の企画展もハシゴしましたが、人大杉でとても疲れました。


外にめっちゃいたカラス

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