サンクスカードでどうなるの? ~そのメリットとデメリット~
出典 ヒトBLOG(NAOEの日記)様
新年度が始まり、新たに社内環境の改善やチームの生産性向上のために様々な取り組みを始める企業様も多くあると思います。
そんな取り組みのひとつに、サンクスカードという有名な物がありますね。
従業員同士の関係性を良くして、働きやすい環境を整えるための物。
ひいてはモチベーションのアップ等を狙って導入される仕組みの名前ですね。
今回はこのサンクスカードに注目して
導入するとどんな良い事があるのか?
逆にどんな風にすると困った事になるのか?
といったお話をさせていただきたいと思います。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
① そもそもサンクスカードってなんぞや?
上の画像にもあるように、サンクスカードとは日々のちょっとした感謝や尊敬を小さなメッセージカードに記して相手にプレゼントするものです。
それを個人ではなく組織という大きな単位で互いにやりとりする事で、従業員同士の関係性の向上を狙ったものですね。
実際に導入した組織としてはJAL(日本航空)や東京ディズニーリゾートの他にザ・リッツ・カールトン等が挙げられます。
大きな名前を聞くと何だが安心しますね(笑)
怪しいものではないという事が分かったところで、次に行きましょう。
② 導入してどんな良い事があるの?
いろいろメリットのあるサンクスカードですが、ざっくり挙げるとすれば
1・社内コミュニケーションの活性化
2・従業員同士の関係性の向上
3・仕事へのモチベーションアップ
4・離職率の低下
という4つのメリットを挙げる事ができます。
1つずつ見ていきましょう。
1・社内コミュニケーションの活性化
まず単純に人とコミュニケーションを取る機会の増加が起こります。
会話の切っ掛けですね。
またサンクスカードに書かれた情報を共有できればこれまでになかった範囲に個人の情報が発信されるため、相互理解の範囲が拡大します。
発信される情報が善意なので好印象が伝播する点も大きいですね。
2・従業員同士の関係性の向上
好印象が伝播するという点も含めてですが
〇〇が良かった。
〇〇に助けられた。
といったプラスの感情を刺激する情報に触れる機会が増えます。
そのため職場内の雰囲気が明るくなっていきます。
同じ人と話すのでもベースにある気持ちが明るくなれば、コミュニケーションは円滑に進みやすくなりますよね。
協力や賛同を得やすくなる雰囲気作りは、働きやすさにも大きく響きます。
そしてそうした経験が積み重なれば、サンクスカードによる何となくの好印象ではなく実績に基づく強固な信頼関係が築かれていきます。
3・仕事のモチベーションアップ
サンクスカードを貰うという事は、自分の行動や実績を他人に認めてもらう、承認して貰えるという事です。
最近よく聞かれる言葉ですが、承認欲求という心理学の言葉もありますね。
人は衣食住や安全、またどこかの一員であるという所属の欲求が満たされた後、より高次の欲求である承認の欲求へと向かいます。
それは他人に評価される事であったり、思い描いた自分の理想の実現であったりしますが、いずれにせよ他者から貰える「ありがとう」「助かったよ」という言葉(心理学の言葉で『意味報酬』と呼ばれるもの)が有って初めてこれは満たされるものです。
人は他人から認められる事が嬉しいのです。
これは浅ましい事ではありません。
自分の行動を他者から認めてもらえる事が自尊心を高め、高められた自尊心がより気高い振舞いをするべく背中を押す。
その影響が避けがたく、仕事にも及ぶという事です。
4・離職率の低下
当然の事ながら上記3つのメリットが顕在化してくると、職場の雰囲気が良くなります。
雰囲気が良くなるというのは具体的に言えば
批判を恐れずに意見を口にできる(心理的安全性の確保された)環境であり
集団の中で浮く事を恐れずに、能力を発揮できる土壌ができるという事です。
意見の交換が活発で風通し良く、遺憾なく自分の力を発揮できる職場。
辞めたくなる人はそうそう居ませんよね。
離職率の高さや従業員の活気に感じるところが有れば、サンクスカードの導入は十分に大きな一手となり得ます。
③ サンクスカードの悪い所って何?
さて、メリットいっぱいのスペシャルアイテムサンクスカードですが
「じゃあ今日から皆にサンクスカードを書いて貰おう」
と思ってカードだけ配れば勝手にいろいろ良くなっていく。
…という物でもありません。
おかしな失敗をしなくて済むようにデメリットも一緒に見ていきましょう。
サンクスカードの欠点は、大きく分けて3つ
1・浸透するのに時間がかかる
2・運用が面倒くさいので放棄されやすい
3・嫌悪感から手を出さない層が居る
といったものが挙げられます。
1・浸透するのに時間がかかる
サンクスカードという仕組みが組織に定着するには、早くても数ヶ月の時間が必要です。
どうしてかと言うとサンクスカードを運用する目標が
『従業員1人1人が自然と書くようになる、文化として浸透する』
という状態だからです。
文化になるためには従業員1人1人に「コレいいな」と思ってもらって、書きたくなる環境を作らなければなりません。
できる努力は運用の推進者を作る等して、積極的に使っている姿を見せる事。
サンクスカードを使う事でメリットがあると知ってもらう事しかありません。
2・運用が面倒くさいので放棄されやすい
一見すると書くだけでいろいろ良い事が起こりそうなサンクスカードですが、効果的に運用しようとするとかなり手間がかかります。
具体的にどんな手間がかかるかと言うと
・カードの集計
・内容を共有できる仕組み作り
・まず手書きが手間(苦手)
といった点が挙げられます。
個人から個人にカードを手渡すだけなら集計の手間は必要無いのですが、それだと先に上げたメリットも大部分が発生しなくなってしまいます。
誰がどれだけカードを貰っているのか、どんな内容で貰っているのか。
これを共有できる仕組みがどうしても必要になるのですが、手書きの物を1つ1つ確認するのはそれだけで手間ですね。
そしてもう1つ、そもそも手書きという行為が手間だったりもします。
また、字が汚いのがコンプレックスで書きたくないという人も多いですね。
こうした層から協力を引き出すにも、かなりの時間を要するのが事実です。
3・嫌悪感から手を出さない層が居る
これは手書きの苦手意識も含まれる話なのですが、そもそもサンクスカードという仕組み自体に嫌悪感や拒否感を示す層も存在します。
大前提として分かっておいて欲しいのは、この拒否層が悪ではないという事。
そもそも日本人同士のコミュニケーション文化には、あまり面と向かって
「あなたのココが素晴らしい」
と称賛する行為が無いですよね。
従って、サンクスカードを送りあう行為に不自然さや気持ち悪さみたいなものを感じる人が居るのは自然な事です。
他にも
文章を考えるのが苦手である
送るのはいいけど貰った数や内容に順位をつける事に抵抗がある
といった理由でサンクスカード自体を忌避する方は必ず居ます。
こうした人たちに対して
「いいからやれよ」
と命令でカードだけ書かせたところで、そこには感謝も尊敬も生まれません。
サンクスカード本来の目的とは逆方向の“やらされ感”だけが残ります。
じゃあ、どうやって導入したらいいの?
というのが最後の項目ですね。
もう少しだけ、お付き合いください。
④ サンクスカード導入時のポイント
サンクスカードはとにかく多くの従業員に利用してもらってなんぼです。
従ってなるだけ手軽に利用出来て、利用したいと思える環境を作るのが導入時の肝と言えますね。
そのために何をすれば良いのかと言うと
1・導入の目的を明確にして、共有する
2・率先して取り組む人を作る
3・触れたくなるグッズを用意する
4・触れたくなる動機を用意する
5・強要は自殺行為と肝に銘じる
の5点です。
順に解説していきましょう。
1・導入の目的を明確にして、共有する
基本の『き』にして案外置き去りになりがちなのが、このステップです。
冒頭にも述べた通り、サンクスカードの目的はあくまで従業員同士の関係性を改善したり、働きやすい環境を整えたりする事。
それがひいてはモチベーションのアップ・生産性の向上にも繋がる、という狙いを持って導入されるものです。
紙に文字を書いて投函する、という義務を課すための物ではありません。
ところが実際には「書け」という命令を発するのみで、目的も効果もろくに説明せず、ただカードという『物』だけが配られているケースが多くあります。
「JALがやって上手くいったからとにかく書け」ではダメなのです(笑)
実際に活用する従業員がカードを書く意味や目的を理解し、腑に落ちた状態で取り組む事。
これが運用の大前提です。
そのためにまず、組織の風土・文化をどうしたいのか、カードを書く事でどのような効果が期待できるのかを説明・共有しましょう。
2・率先して取り組む人を作る
これも日本人の特性を鑑みたものと言えますね。
“皆がやっている”と思うと自分もやってみようかなと思う傾向の利用です。
サンクスカードの推進者を決めて、積極的に活用する姿を見てもらう。
また社内報や朝礼昼礼の機会を利用して、積極的に活用している人や部署、活用例などを共有しましょう。
本気で浸透させようとしている姿を従業員に見てもらう事は重要です。
3・触れたくなるグッズを用意する
出典 ヒトBLOG(NAOEの日記)様 イラストAC/美文字党 てんとう虫様
またサンクスカードを書くor書かない以前に、触れてみたくなるデザイン性の高いカードを用意しておく。
文章を考えるのが苦手な方のためにスタンプを用意しておく等、参加の敷居を下げておく事も重要です。
1回1回にかける労力が大きいと、最初は頑張って取り組んでいても途中から億劫になってしまうケースがあるため、これもかなり有効ですね。
4・触れたくなる動機を用意する
先に述べた通り、サンクスカード導入には参加自体を嫌う層が必ず現れます。
繰り返しますが、こうした層の存在は悪ではありません。
むしろ居る方が自然な状態です。
だからと言って感覚的な問題で不参加を貫かれると、それはそれで困る。
となれば何か別の動機を用意して嫌悪感を乗り越えて貰った方が建設的です。
例えば、少額の報酬を用意する事。
実際にUnipos(ユニポス)等アプリ化されたサンクスカードで使われている手法ですが、獲得したカードに応じて月当たり数百円~数千円の報酬が発生するという方法も有ります。
報酬が目当てになっては本末転倒ですが、一度嫌悪感を乗り越えてカードを送りあう事の効果を体感してもらうためには、これも有効だと思います。
5・強要は自殺行為だと肝に銘じる
最後に、これだけはやってはいけない点の注意です。
特に導入の初期、浸透を急ぐあまり『月に何枚提出』という義務化を行ってしまうケースがあるのですが…
これは最悪です。
サンクスカードはあくまでも自発的に、感謝の思いや尊敬の念を伝えたいと願って送るから効果がある物です。
『義務に押されて書きたくも無いのに仕方なく書いたカード』を貰って嬉しい人は居ません。
また仮に本当に感謝の心でカードを送ったとしても『義務化されている』という情報が受け手の頭に入っていれば、自然とその分の印象が差し引かれた状態で受け取る事になります。
人間の脳は情報を直感的に結び付ける性質があるため、これを避ける事ができません。
出典 イラストAC/Muchan様
せっかく伝えた好意に勝手に割引シールが貼られてしまう。
こんな損な事はありませんよね。
義務化は百害あって一利無し。
どんなに気持ちが焦っても絶対にやらないようにしましょう。
⑤ まとめ
以上、サンクスカードを導入するとどうなるの?というお話でした。
最後までお読みいただいてありがとうございます。
新しい仕組みや制度を導入しようとすると、分からない事が出て来たり、強い反発を受けたりして心が挫けそうになる事も多いと思います。
しかし、例えば今回取り上げたサンクスカードをただの『書き物』ではなく、環境を改善する『仕組み』として広める事ができたなら。
その喜びもひとしおのはずです。
何かを良くするため、行動を起こした貴方こそ素晴らしい。
それを忘れずに挑戦を楽しんでください。