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打ち上げ花火、どこからみよう。

シャッターの多くなった地元の商店街。
自転車をおすおばちゃんと、立ち話をするエプロン姿の女性。犬の散歩のおじいちゃんに、ただ通過する学ランの少年。

夕方になればほとんど人通りがなくなるはずのその道は、今日はなんだか違っていた。

赤、白、黄色、
水色、そして黒、

色とりどりの浴衣をまとった人々が、
押さないようにでもふれ合う距離で、

ある人は恋人と手を繋ぎ、ある人は友人とかき氷を食べながら、列をなして歩いていた。

「そっか、今日は花火大会だね。」
あたしはそっと隣を歩く彼に呟いた。

じっと携帯を見ていた彼は、
少しだけ目線を上げて

「そーいえばそーだったな。」
一言だけそういった。

「…彼女と見ないの?花火」

「あぁ…、あいつ間違ってバイトいれたんだって。悔しがってた、アホだよな。」

アホだよな、
そう呟く彼の頬はきっと緩んでいる。
見なくても声のトーンでそれくらい分かるよ。

何回も、何年も、いつだって
見つめていたあなただからね。

曇りそうになった顔を、
不自然なほどに明るく

キュッと口角をあげて
「じゃあ一緒にみようよ!」
そう、声をあげた。

彼がこっちをむく。
彼の目にうつる、精一杯のあたしの笑顔。

「やだよ、めんどくさい。人混み嫌いなのしってるでしょ。」

「…ですよねー。」

分かってるよ。ほら、答え方まで想定通り。

「ほら、早く帰るぞ。今日徹夜でゲームやりたいって行ってたからわざわざ夜食買いにきたのに。」

「はーい。」

「なにむくれてんの。」

「べっつにー。」

会話が途切れた頃には商店街を抜けて、小学生の通学路へでていた。あと5分ほどで家につくだろう。彼の家にも、隣に建つあたしの家にも。

「ただいまー。」

「おばちゃん、おじゃましまーす。」

靴を脱いで上がるのは、
小さい頃から通った彼の家。

すぐにリビングが見えて、
「いらっしゃい。夕飯たべてくでしょ?」
いつものようにお母さんが聞いてくれる。

「今日なにー?」
「餃子にするわ、あとで包むの手伝ってくれる?」

「わーい!分かった!すぐいくね。」

バタバタバタ

階段をかけあがり、彼の部屋に荷物を置く。

「おい、ゲームは?」
先に上がっていた彼が渋い顔で聞いてくる。

「あとでする!餃子が先!じゃあ!」
彼の返事は聞かずにまた、バタバタと音を立てて階段を降りた。

手のひらに皮をのせて、餡を包む。この家で何度も繰り返した作業。昔は下手だったヒダの作り方も、最近はとても上手くできるようになった。

黙々と、お母さんと二人で餃子を包んでいく。
一皿、二皿、
三皿、

ヒュルルルルルルーーーーーーー

ドンッ

あっ、


始まった。

「あぁ、そうねぇ。今日は花火だったわね。」

「ねぇ、おばちゃん!ちょっと休憩!」

「はいはい、いってらっしゃいな。」

餃子の餡でベタベタになった手を拭いて、今までに一番の音を立てて階段をかけ上がる。

バタバタバタ

「花火始まったよ!」

「知ってるし。お前の足音うるさすぎ。」

「いーから早く!ベランダベランダ!」

ガラガラガラ

ヒュルルルルルルーーーーーーードンッ

鈍い音と共に花火はあがる。
彼の家のベランダからは、前の建物に邪魔されて少し欠けた花火がみえた。

「お前ほんとに花火好きだよな。
毎年こっからみてんじゃん。」

ほんとだね。
小さい頃からここはあたしの特等席だった。
人混みを嫌う彼と、
一緒に花火がみれる、特等席。

「好きだよ。」

欠けた花火も。
肩がふれ合う、この小さなベランダも。

あなたのことも。

浴衣もかき氷もないけれど、
ちっとも興味無さそうな
あなたが隣にいるだけで

世界で一番輝いた

「打ち上げ花火。」

来年、あなたはどこで見るのかな。

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