三題噺 「夏至」「スニーカー」「高校生」 ある夏至の夕方
今日は夏至。
一年で一番昼間の時間が長い一日。
正直私はこの日が一番憂鬱で仕方ない。
何故って?
それはこの私、エミリー・ガーネットが吸血鬼だからだ。
吸血鬼は、太陽の元では生きられない。
故に、夜が短い夏至の日は活動できる時間が最も短いのである。
ああ、つまらない。
夏至というだけで、寝なければいけない時間がこんなに長いとは。
今すぐにでも、スニーカーを履いて外へ駆り出し、人間を襲いに行きたいというのに。
今は午後五時。
もう日が暮れてもいい頃合いなのに、外は未だに明るい。
これが冬至であれば、今すぐ外へ出かけられるというのに。
こうなったらもう、あれしかない。
日光対策を十分に行ってから、外に出よう。
私は、黒いローブ付きのマントに身を包み、サングラスと黒いマスクで顔を覆い隠すと、黒いスニーカーを履いて黒い日傘を手に、屋敷の外へと駆り出した。
日傘を差しながら私が道を歩いていると、丁度向こうに制服姿の少女達が何かを話しながら歩いている様子が見えた。
見たところ高校生だろう、所謂JKという奴だ。
私は、早速上物の獲物を見つけたと思い、早速後をつけることにした。
電柱の影から私は奴らの姿を窺う。
艶やかな黒髪のポニーテールの下で顕になる、白い柔肌に覆われた綺麗な頸。
どの娘も、健康的で如何にも美味そうな血が流れていそうな見た目をしている。
ああ、あの綺麗な首筋に今すぐにでも齧り付きたい。
私は思わず、マスクの奥でじゅるりと音を立ててしまう。
ああ、もう辛抱たまらん!
私が今すぐにでも女子高生達に襲い掛かるべく、電柱の影からした飛び出そうとした瞬間__。
「君、ちょっといいかな?」
「はい?」
急に肩を掴まれた。
カクカクと壊れた人形の様に振り返ってみると、そこには笑顔なのに目が全く笑っていないポリスメン。
「ここ最近、君みたいな格好をした不審者がいるって通報がよくあるんだよねぇ。ちょっと署まで来て貰おうか」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
まだ日光が出ていたので、空を飛んで逃げ出せるはずもなく__私は手錠を掛けられると同時にパトカーに乗せられ、署へと連行されてしまうのだった。