Gift

「じゃ、そういう事だから。俺達別れよう」
 俺__松前 赤平(まつまえ せきへい)はその日、幼馴染を捨てた。
「なんでェ? なんでェ!? あたし達約束したじゃん! 大人になったら結婚するって!!」
 まるでリスの様な大きく綺麗な瞳に、大粒の涙を浮かべながら追い縋るこのちみっ子は、深川 唄美 (ふかがわ うたみ) 。
 俺の幼馴染である。
「端的に言うとな、お前ガキ臭いんだよ。顔は可愛いけど背も胸も小さいし、腐れ縁だからしょうがなく付き合ったけどさ、この間ダメ元で留夜別 紗那(るよべつ しゃな)さんに告白したらOK貰えたんだよ! つまり、これからは紗那さんと付き合うって事。お前はもういらねぇんだよ」
 俺はそう言い捨てて、その場から立ち去った。 
 後ろから唄美の泣き声が聞こえてくるが、知ったこっちゃ無い。
「待たせたね紗那、野暮用が長引いちゃってさ……」
 俺の向かう先には、正直唄美なんかよりもずっとスタイルのいい、ギャルっぽい見た目をした美少女。
 そう、俺の新しい彼女にしてクラスのマドンナ、留夜別 紗那その人である。
「もう、待ちくたびれたわよ赤平! まぁいいわ、デートに行きましょ」
 紗那は腕を組みながら、俺に寄り添う。
 俺は腕に押し付けられる、唄美では味わうことの出来ない膨らみにドキドキしながらデートへと向かったのだった。

「許せない......許せない......」
 あたしはその日、幼馴染に捨てられた。
 幼い頃から結婚の約束をしていたというのに……。
 なんで、なんであんなポッと出の性悪そうな女なんかを選んだの......?
 あんな女なんかより、あたしの方が、ずっと赤平くんの事を愛しているというのに……。
 許さない。
 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ赤平くんはあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものあたしだけのものアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノアタシダケノモノ……。
「ああ、そうだ。良いことを思いついた」
 頭の中で、狂った考えが浮かんでくる!
 もうこの時から、いや、赤平くんと結婚するって約束した時からもう、あたしは狂っていたのだと思う。
 こうなったらもう、これしか無い。
 そこに残されたのは、狂気に堕ちた一人の少女であった。

 次の日。
「あ〜、昨日はデート楽しかったなぁ」
 俺は普段通りに学校に来て、昨日のデートのことを思い出していた。
 水族館に行き、クレープを食べ歩きながら映画を見るというごく普通のデートであったが、紗那は終始満足そうな笑顔を浮かべていたので、満足してもらえたと思っている。
「あれ? そう言えば、紗那は今日来てないんだな」
 辺りを見回すと、二つの空席があった。
 一つは紗那の席、そしてもう一つは唄美の席であった。
(唄美まで居ないのか……。まぁ、アイツはどうでもいいか)
 俺は深く考えずに、学校での一日を過した。
 
 帰宅後。
「ただいまー、あれ? 何だこの箱?」
 玄関の扉を開けると、リボンでラッピングされた一つの箱があった。
 よく見ると、リボンの結び目にタグが括り付けてある。
「何々? 『愛する貴方へ。 これはあたしからのギフトです。貴方なら絶対に喜んでくれる物が入ってます(ハート) 』?」
 俺は怪訝そうな顔を浮かべながら、とりあえずリボンを解き、箱を開けてみる。
 しかし、そこに入っていたものを見て、俺は激しく後悔することになった。
「え? うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」        
 そこに入っていたのは、首。
 白い肌とブロンドの髪が所々赤黒く汚れ、目玉は白目をひん剥いていた。
 その顔には見覚えがあった。
 そう、その首の持ち主は他でもない。
 俺の彼女、留夜別 紗那であった。
「あーあ、見ちゃったんだ」
「!?」
 突如聞こえた後ろからの声に、俺は咄嗟に振り向いた。
「これはお前の仕業か? 唄美!?」
 俺は声の主、唄美に問いかけた。
 所々赤黒く汚れた純白のワンピースを着た彼女は、右手に血塗られた包丁を握りながら俺を見下ろしている。
 特徴的な大きく丸い瞳は、まるで深淵を見つめるかのように、何処までも暗かった。
「そんなの聞くまでもないでしょ? それよりもねぇねぇ、喜んでくれた? 貴方の大好きな、泥棒猫の首だよ! キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 狂った様に笑い出す幼馴染を見て、俺は底知れぬ恐怖しか感じなかった。
 俺の目の前にいるのは、見知った幼馴染などではない。
 ただの狂った化け物である。
 少なくとも、俺にはそうとしか思えなかった。
「ねぇねぇ。何でこうなったと思う? 一体誰のせいでこうなったかわかるかなぁ?」
 唄美は一瞬で間合いを詰めると、両側から俺の顔を手で挟みながら問いかけてきた。
「誰のせいって……、そんなの、お前が勝手にやった事じゃないか! 俺は何も悪くない!!」
 だが、唄美はそんな俺の答えが気に入らなかったらしい。
「あーあ、そうやって自分の非を認めないんだぁ。いい? これは、赤平くんが悪いんだよ? あたしを捨てて、あんな女に乗り換えた君が悪いんだよ? さて、悪い赤平くんにはあたしからの特別な『ギフト』をもう一つあげないとねぇ」
「そんなもんただの逆恨みじゃねぇか、俺のせいにすん……むぐっ!?」
 反駁しようとする俺だったが、急に塞がれた口と差し込まれた舌でそれは叶わなかった。
(何だ……これは)
 押し付けられる瑞々しくも柔らかい感触と同時に、手足が痺れて感覚がどんどん無くなっていき、意識も朦朧としてくる。
 俺は、そのまま唄美のキスを受け入れざるを得ないまま、意識を手放した。
 意識を手放す寸前に、こんな声を聞きながら。
「ふふ、赤平くん。あたしも今すぐ、そっちに行くからね。今度は、ずっと一緒に居ようね」

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