ある冬至の夜

私の名はエミリー・ガーネット。
黒装束で闇夜に紛れ、人間共の首筋に牙を突き立てる吸血鬼だ。
ところで今日は冬至、一年の中で一番夜が長い日だという。
つまり、今日は私が外で活動出来る時間が一番長い絶好の吸血日和という訳だ。
早速、夜の街に繰り出すとしよう。
私はこの夜を楽しむ為に、暗い屋敷の中から外へと翔いて行った。

しかし、街に繰り出した途端、私は一気に興を削がれてしまった。
せっかくの長い夜だというのに、街中でネオンとクリスマスツリーが輝き、まるで昼の如く明るくなっている為だ。
太陽の光でないからまだマシな方であったが、これではせっかくの吸血日和が台無しである。
しかも、道行く人間共は皆男女が手を繋いでキャッキャウフフと笑っていた。
この状況を見ていると、不快感が押し寄せて来る。
私にはもう生まれてこの方何百年も恋人なんて居ないのに……。
イライラしながら街を眺めていると、ふとある事を思い出した。
確かもうすぐ、クリスマスである。
私の様な吸血鬼にとっては忌々しい日であった。
そう考えたら、ますます腹が立ってくる。
こうなったら、仕方無い。
このクリスマス気分で浮かれている街の雰囲気をぶち壊してやる。

私は呪文を唱えながら、指先を大きなクリスマスツリーへと向けた。
すると、指先から魔法陣が現れ、そこから紫色の闇の炎がクリスマスツリーへと放たれた。
「うわあああああああ」
「きゃあああああああ」
クリスマスツリーが大炎上すると同時に、人間共が悲鳴を挙げながら逃げ惑う。
これだ。これでいいんだ。
クリスマスなんて言うクソみたいなイベントは消えてしまえ。
そうすれば私は、余計なものを視ずにこの長い夜の吸血日和を快適に過ごせるんだ。
「さてと、それでは早速食事に……」
「あの、少しいいか?」
「へ?」

突然背後から男に声を掛けられた。 

まさか、この私にもついにクリスマスを一緒に過ごしてくれる様な殿方が……?

そんな淡い期待を抱くと同時に、私は展開した魔法陣を解いて振り返る。

しかし、その期待は虚しくも裏切られた。


ザシュツ 


振り返った途端、鋭い銀の刃が私の頸を斬り裂いた為だ。
首の断面の、焼ける様な激しい痛みと同時に男の声が聞こえてくる。
「これで、討伐完了だな」
私を見下ろしながら血塗られた銀のナイフを鞘に収めたのは、十字架のペンダントを首から提げた黒づくめの男。
恐らくは、吸血鬼ハンター。
ああ、やっぱりクリスマスなんてクソ喰らえだ。

そんな思いが頭の中を過ぎると同時に、私の視界は暗転した。


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