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星の商人とかどうかしら


1.交換するための物語

「お金」というものは、非常に便利なツールです。

農家と消防士と染織家と芸人と物理学者といった、あまりにもかけ離れた仕事をする者同士が、それぞれの働きを持ち寄って、それぞれが欲しいものを手に入れて生活していくことができるのは、お金という共通の度量衡があるからです。

もしお金が無ければ、私たちは自分が欲しいものを手に入れるために、毎回非常に苦労して交渉しなければならなくなることでしょう。

私たちの持っているさまざまな資産というのは、その背景に多様な価値や意味や時間や労働が込められているわけで、そのように多様な価値が付随したものを交換しようと思ったら、本来複雑な儀式や物語が必要となるのです。

でもそれってすごく大変で、農家と消防士と染織家と芸人と物理学者が、お互いの長所を活かして助け合う物語なんて、みなさんパッと思いつきますか? みんなが納得できるような物語をすぐ描けますか?

その5人が実は家族であるというならば、強力な神話を共有していますから、「まあ当然でしょ」という感じで、比較的速やかに合意して助け合い、それぞれの働きを交換することができるでしょう。

でもそれが知人なら? 赤の他人なら? 外国人なら? 宇宙人なら?

いったいどうやってみんなが合意できるようにすれば良いのでしょう?
そして世の中の多くは、赤の他人の働きによって成り立っているのです。

2.交換可能にする力

お金というものは、到底比較できないような多様な価値の込められたさまざまな資産を、かなり強引にフラットにして数値化して交換可能なものにして市場に陳列させる、そんな力を持っているのです。

それはきわめて強力な力です。良くも悪くも。

その力は、歴史の中で「信用貨幣」というこれまた強力なウツワを得て以降、ますます多くの人を惹きつけて、あらゆる神話を蹴散らしながら、たちまち人類の営みの中心に食い込んでいきました。

その結果、私たちを取り巻くあらゆるものが、交換可能にされ、商品にされ、いまや人間の生命や未来のリスクまでもが金融商品化されて、売り物として市場に並べられるようにまでなったのです。

あらゆる価値がお金という物差しで計れるように集約されたので、ほとんどすべての物事は「幾らかかって、そして幾らになるのか」という言葉で語られてしまうのです。

そこには「質」はなく、ただ「量」があるのみです。

歴史上、さまざまな神話が人々の営みの中心に据えられてきましたが、ある点でもっとも「極」まで来た感じがありますね。何とも味気ない神話の時代になったものです。

3.オモチャじゃない!って怒られる

現代は、人間の生命も、地球環境も、病気も、飢餓も、戦争も、すべてがお金で計測されることによって、たちまち交換可能なパッケージで包まれて市場に並べられ、やり取りされています。

そうして数字という分かりやすい指標がすべての価値を包含するという体で、その数字を大きく増やすほど人は幸せになるのだとして、いかに高得点をたたき出すか、というゲームのようにもなっています。

いったい人類はこの地球上で何のゲームをやっているのか、私にはもはやさっぱり分かりません。何千億とか何百兆とかいう数字の先に、人類はいったいどんなゴールを目指しているというのでしょう?

古来、ゲームというものは、石ころだとか貝殻だとか獣の骨だとか、そういうあまり実用性のない物を利用して、暇つぶしに遊ぶものでした。

生活必需品で遊ぶと、「オモチャじゃない!」とオトナにゲンコツ食らって怒られるようなことだったのです。

ところがいまや生活必需品どころか、私たちの人生や地球環境まで数値化されて、交換可能な状態にされて、投機対象にされて、マネーゲームのテーブルに乗せられているのです。

そういったものを無理やり数値化すると、莫大なマネーに換算されるというのは分かるのですが、そこまでやってしまうと地球の住人全体に迷惑がかかるんですよね。正直ホントにやめて欲しいです。ゲンコツごっちんですよ。

4.星の商人

どこかで見たニュースによれば、もうすでに月の土地の分譲まで始まっているそうですが、それならもう宇宙のすべての星々に値段を付けて、それで商売していけば良いのではないでしょうか?

ビジネスマンたちがみんなで夜空を見上げながら、星々を売り買いして天文学的な数字に増やしていくゲームに興じているのであれば、その姿はなかなか風情に思えなくもありません。

地球の誰にも迷惑かけませんし、なんかまあモニター見ている姿よりはロマンチックですよ。そのための美麗な衣装も仕立てましょ。もちろん一流の職人が仕立てるのです。

人類の余剰の労働には、壮麗な装飾がよく合います。それが文化ですから。

ただどんなにマネーゲームに熱中したとしても、そのあいだにコツコツと働いて、ご飯を用意してくれる人への感謝は忘れちゃいけません。

「ご飯ですよ~」という声が聞こえたら、ただちにゲームを止めて、勝敗云々は脇へ置いて、みんなで仲良く食卓に着いて「いただきます」をするというのがルールでしょう。

みんな同じ星に住んでるんだから。


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