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明日の空 vol.3

第三章「再び屋上へ」

 あんなことがあったにもかかわらず、私は次の日の夜にも昨晩の屋上へ来ていた。
 ビニール袋を片手に…中身は、近くのコンビニで買ったおつまみとお酒だ。昨晩家に帰ってから自分がすごいことをしてしまったことに気がついた。
・衝動的に屋上に行き飛び降りようとしたこと。
・初対面の人に自分の事をあれこれと話したこと。そして、我に返った私はまた屋上へ来ていた。

 昨日の人に謝り、そして昨晩のことは聞かなかったことになかったことにしてもらおう。
 
「あのぅ、昨日も夜にここに居ました?」そう声をかけるとその人影はこちらを向き私を指差して、「あー、昨晩の赤いコートの女の子でしょ!」とビール片手に笑顔で答えた。
続けざま「屋上で別れたけど大丈夫かなって思ってたのよ。随分思い詰めてたみたいだし…。」と言った。
 私はすかさず、「昨日は、勝手にマンションの屋上にはいってしまって…しかも、見ず知らずの私なんかの話を延々と聞いてもらって、、すみませんでした。」と謝罪し、そしてビニール袋を手渡した。
「これ、お詫びと言ってはなんですが…もらってください。それと、昨日話したことは忘れてください。じゃあ。」そういって、帰ろうとした。
 すると彼女は、「折角だから一緒に呑もうよ!頂いたものだけど…。」といった。
「いやでも…」という私に、彼女は笑顔でビールを私に差し出した。
 彼女は、「昨日の事を気にしてるみたいだけど、屋上に勝手に入ったことは誰にも言わないし…話してくれたことも私の胸にしまっておく。」
そう言われて私はホッとした。
 そして、しばらく屋上で二人でのむことにした。

 「そういえば、自己紹介がまだだったけど…わたしはこのマンションの管理人の定吉の娘で、管理人見習い中の小宮山ぽんず。と申します。ぽんずって変な名前でしょ?」と彼女は言った。
 「いやいや、わたしはポン酢好きですよ。かわいい名前ですね。」といった。
 「わたしは、佐山民子といいます。」と私は言った。
 すると、ぽんずさんは申し訳無さそうに、「実はね…マンションの住人でも屋上には上がっちゃいけないのよ。私は管理人の父からここの鍵を借りていつもこの時間は屋上に上がってるんだけどね。管理人特権?だから、屋上にいたことは秘密にしてね」とぽんずは笑った。
「そっか!ある意味。お互いに人に言われたくない秘密を持ってることになるね。」とぽんずはそういうと私に笑いかけた。
「屋上っていいですよね。ぽんずさん羨ましい。」と私は言った。
「そうね、いつも夜になるとこっそりとビールを、持って屋上に来てるよ。夏は涼しいし、冬はシンとした空気がたまらなくて…一番居心地がいい場所かも…」そんなぽんずさんの話を聞いて、私は気づいたら、「私、毎晩ここへ来ていいですか?家も近いので。」と口にしていた。
すると彼女は…
「ここは、私の居場所と決めてたけれど、たみちゃんと、出会ったのも何かの縁だし、今日から私とたみちゃんの場所ね。」と言ってくれた。

私はなぜここへ来ると言ったのか?最初は二度とここへは来られないと思っていたのに。多分カッコ悪い姿をみられ、素をさらしてしまって、今更自分を作ることをしなくていいし、何よりぽんずさんがとても楽しそうに話していたからそんな言葉がでたのかもしれない。
 私にとって、ぽんずさんとの出会いはとても特殊ではあるけれど特別な出会いなのかもしれない。そう思えた。

次項に続く…

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