【セカイ再信仰特区】剣持刀也さんと夕陽リリさんの歌を神話・ファンタジー的観点からお話【ジェヘナ】

最近、友人からVTuberという存在を勧められました。
その中でも友人が特別推してきたのは『ハッピートリガー』という男女四人組ユニットです。

私のようなインターネットに疎い人間でも楽しめるだろうか?という疑問と不安はありましたが、折角大切な友人が教えてくれた方々ですから、勧められた歌と配信を見ることにしました。ただ、一気に彼らの軌跡を追うことは困難なため、今回は勧められた歌についてのみの感想です。

感想を言うにあたって、幼少のころから習ってきた偏った歌の知識、大学で四年間研究を行っていた神話・ファンタジー・舞台などの観点からの話が多くなるかと思います。

※私は常々学ぶ側の人間でしたので、本物の専門家の皆様が見ると間違っていることがあるかもしれません。若造の自己解釈であることを承知の上で、お手柔らかにお願いいたします。
※私はVTuberについて何も知らない深読みオタクです。「あの人そこまで考えてないと思うよ」という意識前提で、愉快な娯楽の一部として楽しんでいただければ幸いです。


▽公式プロフィールと感想

さて、以下に友人から送られてきた四名の内、今回取り上げる二名の公式プロフィール+簡易的な感想を記載しておきます。
友人に「この二名の選出理由はなに?」と尋ねたところ、「四人いる場合は二人、二人いる場合は一人から嵌らせるとお前は勝手に全員好きになってくれる」とのことで、四人の中で歌の投稿が多い二名を選んだそうです。着実に沼まで詰められています。

①剣持刀也さん

<剣持刀也>
16歳の高校2年生。剣道部所属の隠れまじめ系男子。
普段は周りと合わせてじゃれているがダメな時はダメという。
以前から他の人の配信を見るのが好きで、その憧れから始めた。
練習のしすぎで怪我が絶えないので、常に救急セットを所持している。

にじさんじタレント紹介より引用

どうやら、かなりしっかり者のようです。『練習のしすぎで怪我が絶えない』と書かれていますが、腕前が如何ほどなのか少し興味がわきますね。文面だけ見れば、武士道に基づく気質のようにも見えなくはありません。お顔も拝見しましたが、正統派王子・和の心、という言葉が似合う外見ですね。

②夕陽リリさん

<夕陽リリ>
16歳の高校1年生。未来人の女の子。
悪戯好きで、よくいろんなことをやらかす。
現代の電波をジャックして、悪戯の一環として配信をはじめた。

にじさんじタレント紹介より引用

剣持刀也さんと比較するとかなり自由人であるようです。未来人という所が注目ポイントですね。VTuberの中には一般的な人間とかけ離れている人が居ると聞いていますので、驚きはすれど早々に受け入れていきましょう。ここは突っ込むところではない気がします。四人組の中では、いたずらっ子な末娘のようなポジショニングでしょうか。


▽歌ってみた動画感想

私が幼年時代から『音楽』というものを好むことを知っている友人にまんまとイスに着席させられたわけですが、そのままに彼らの歌へ好き勝手言わせていただきます。もしおすすめの曲などがあれば教えていただけると嬉しいです。


①剣持刀也さん「セカイ再信仰特区」

あの紹介文の方が、この曲を歌っていらっしゃる………?
VTuberの方々がボカロ曲を多くカバーしていることは教わりましたが、勝手ながら和風の曲をカバーしているイメージを抱いていたため、意外なところでした。

私は『セカイ再信仰特区』は歌詞や曲調、タイトルなどから、第三陣営とも取れる『トリックスター』の曲であると解釈しています。だからこそ、自己紹介分だけを見た段階では、夕陽リリさんが歌っていると言われた方が納得すると思います。

『トリックスター』は神話において、神々が生み出す自然界の秩序を逸脱・放棄し、己が道を行く存在として、多くの神をひっかきまわす立ち回りが特徴的です。有名どころで言えば、北欧神話のロキでしょうか。本来の神話と外れますが、近年有名になっているクトゥルフ神話という創作物におけるナイアルラトテップもトリックスターとして扱われることが多いですね。大体はあのイメージを持っていただければOKです。基本的枠組みに収まらない、良くも悪くも破壊者、というような。

『セカイ再信仰特区』は世界の片隅の、客席に一番近い舞台上から世界全体に語り掛ける、『語り部的役割』と、そんな中でも舞台から退場することを許されない『登場人物としての自覚』を感じさせる曲であると思うのです。だからこそ、メタフィクション、マイノリティを許容しない世界に殺されている自分を誰かに気付いて欲しい、のような。
だからこそ、何の変哲もない男子高校生がこれを歌うのか? と疑問が溢れました。


--①歌い方について

鼻濁音が目立つ、鼻にかかる発声方法ですが、さ行やた行を筆頭にアクセントを正面につき出す歌い方をしているため、突き放される感覚と、否応なしに直接耳の奥に声をぶつけられる感覚が同時に襲い掛かってきました。
ただ、特別喉を締め付けたり、急激に開いたりしているような感じでもなかったので、かなり地声に近いのではないかと思います。素のまま、ありのまま歌っているのかな。

「くたばります」の「く」は特に、殆ど子音だけで発声しています。これのおかげで口の中で何かを噛み殺すような、くたばったそれを吐いて捨てる無関心さのような、不思議な情緒にさせられました。表現力がすごい。

紹介文だけでは「正統派」と言いましたが、所々微かに「がなり」が入っている気もします。
このがなりは威圧や威嚇などではなく、拒絶や暴力性の中にある諦観と言いますか……彼について私は何も知らないので大外れであったら本当に恥ずかしいのですが、正統派の外見と相反して、内面がかなり拗れているように思わせます。この激情を、ただの未成年の思春期であると片付けるには悍ましいほどに。

基本的には全て、意図した粗さを持っているのですが、一言一言丁寧に捨てているような気もします。「今からお前を捨てるぞ、いいね、準備はできた?」と再三確認を取りながら、ブラックホールに蹴り飛ばされているようでした。


--②PVについて

高校生としての日常を映した直後に地球を指先に乗せたり、リフティングしてみたり。日常の延長で世界を揺るがすような、平穏の中の逸脱者・主犯であり傍観者でもあるという印象を持ちました。
友人と話している自分を窓の外の巨大な自分が見つめるという構図も「傍観者」としては満点です。これらの印象が正しければ、彼は正しく『トリックスター』と言えるでしょう。

PV中のモブと言える存在がことごとく木人形+顔が描かれない関係で、私たち視聴者が視線を合わせることになるのは剣持さんただ一人であるのも味わい深い点です。

また、ラスサビのシーンで飛び下りたのには驚愕しました。
「気付いて」と言いながら、自ら命を絶つ行為を行う。
ただの高校生が、PV内で一番の安らかな笑顔を浮かべ、両手を広げて飛び下りる。
「気付いてもらう」ための訴えかけとしては究極体である強硬手段です。

しかし面白いのが、竹刀袋や救急バッグを外していない点
自ら身を投げる方は、現実でも演出でも、基本的に身一つで命を失いに行きます。鞄などは特に、何処かに引っ掛かりでもしたら無駄に生き延びてしまうからです。今回のPVでは竹刀袋が該当します。

ですが彼は、「剣持刀也」を象徴する一切をその身から外すことなく飛び下りました。

そこで私が思い至った結果ですが、剣持さん、死を目的として飛び下りたわけではないのでは?
例えば、「ここは舞台の上だから自分が死ぬことはない」と理解しているというメタ性だとか、「飛び下りることで気付いてもらえるかもしれないが、気付いてもらうために死ぬなんてことはしない」という意思と自己の強さだとか、そのようなものがあるのではないでしょうか。

綺麗な景色に最高だと笑い、まるで黒幕かのように拍手をして、何事もなかったかのように着地を行い、笑顔を浮かべて曲の幕を下ろす。やはり死ぬつもりなどなかったのでしょう。
演出であるとは分かっていますが、この一連の流れで急に人外のような恐ろしさ、人間の範疇を超えた様子を直接的に表していて凄まじいです。
これが剣持さんのオーダーでも、PV担当の方の独断でも、息を呑んで画面を見つめる時間が発生する作品に出会えたことに感謝を告げたいと思います。手始めに友人にコピペして感謝と共に送りつけました。


--③総括

剣持刀也さん、叙事的演劇とか、得意そうですね……。

Q.叙事的演劇とは?
A.登場人物の一部が観客を認識しており、度々観客に語り掛けるシーンがある、メタ的要素を含む演劇のこと。感動を与えるためではなく、劇の内容と現実を地続きにすることで観客に思考を促す効果を持っています。


②夕陽リリさん「ジェヘナ」

これまた驚く選曲でした。
ジェヘナ(ゲヘナ)とはキリスト教で言う所の地獄です。罪を犯した人が行く、永劫続く懺悔の場。生贄を捧げた谷の名前でもあります。悪戯好きな未来人の女子高生が歌うにはあまりにも重すぎる。

それこそ、夕陽さんの紹介文からトリックスター的な、無邪気な残酷さを告げるような曲を予想していたので、逃げ場のない地獄をタイトルとして冠する曲とは恐れ入りました。

原曲の方のジェヘナに対して私が抱いているのは、大人になってしまった苦痛と未来へ希望が持てない諦め・絶望のようなものを酒で流し込む大人、というような、一定の荒廃さを秘めている歌だと勝手に思っています。

これは曲での判断になってしまいますが、剣持さんが神話の中で生きる人類を表象するものとするならば、夕陽さんは空想やファンタジーの表象のような、幻想の中の人間味を持っているのでしょうか。

選曲に意味が無いということはないでしょうから、ゲヘナについて考えを巡らせてみようと思ったのですが、私の手元に明確な資料が残っておりませんでした。罪人の行く末であるということだけを頭に残して拝聴させていただきます。


--①歌い方について

正直なところ、もっと喉から鳴らすような可愛らしい声の方だと思っていたので、落ち着いた女性の声が聞こえてきた瞬間思考が停止しました。

全体的にウィスパーとまではいかずとも、息が多く含まれる声の出し方です。こちらは恐らく意図的でしょう。

エフェクトを重ねているのか、歌声が重なっているのか、どこかレイヤーの違う場所から語り掛けられているような感覚になりました。
一番は基本的に高め、やわらかめ、儚げな声なのですが、サビに入ると後方から小さくも低い声が聞こえてきます。
オク下を入れるミックスは珍しくもないよな、と思っていたのですが、これが恐らく技巧だったのでしょう。

二番に入った途端息の量が減少し、何処か薄ら笑いさえ聞こえてきそうな歌い方に変わります。

一番の発声はつむじの上から全身を吊り上げて、上から降り捧げるようなものだったのですが、二番の発声は下からせりあがるような、喉の鳴らす位置を意図的に下げたようなものに変貌しているので、何と言うか、まるで猫を被ったかのような、強がってみせるかのような様子になったわけです。
こちらの方が、我が強そうではありつつ、本人の声質にうっすらとコーティングされているため、何処かでぱっと消えていなくなりそうなイメージは残っています。


--②PVについて

一番ではヴェールを被った方が、眠り続ける夕陽さんの手に触れているのに対し、二番では蠍のような尾?を持つ人物に刃を向けられながら見下ろされています。

この対比は面白いですね。どちらも桃色の髪なので夕陽さん本人なのか、それとも関係者なのか。服装が違ったり髪の長さが違ったりするので、他人かと、ぱっとみた段階では認識しました。

けれど、ここで味を出してくるのが夕陽さんのプロフィールです。
彼女は「未来人」であるわけですね。
私が未来や時間遡行にまつわる作品を手掛ける・摂取する際、必ず気に掛けることがあります。それがパラレルワールドの発生です。
これはファンタジー、SFにおいて忘れてはいけない重要なポイントなのです。

物語には時間の流れというものが必ず存在します。それはほんの一秒の言動が変化するだけで、遠い未来に大きな影響を及ぼすことになる。
これを『バタフライエフェクト』と言います。蝶の羽ばたき一つ、鱗粉一粒でも、遠くで台風を起こす風の流れを作り出しかねない、みたいな語源だった気がします。

未来人である彼女が、私たちのいる現在(夕陽さんからする過去)に接触を図ることは、過去を改変することに他なりません。
過去改変は多くの犠牲を伴います。かの有名なドラえもんにも、過去に行くことで両親がのび太君を産まなくなる危険がある、のように説明していた話があったはず。

つまるところ、私はこのPVに現れる二名は、「夕陽リリという存在が過去に介入したことで消された別世界の夕陽リリ」に該当するのではないかと思うのです。全然違ったら手を叩いて笑っていてください。ただのにわかの妄言です。

別世界の夕陽リリさんだと仮定して、ヴェールの方はこの世界軸の夕陽リリさんに慈愛を、蠍の方は明確な敵意を向けているのでは。「生きていたいよ」の意味がぐっと深まる気がしますね。

最後のイラストでたった一人になってしまった夕陽リリさんですが、これは別世界の消滅を意味すると考えてもいいのではないでしょうか。全くそんなことはないと言われたら本当に申し訳ありません。ただ、このPVには正解と言うか、参考となった正史があるように思えてならないため、教えていただけるととても嬉しいです。


--③総括

夕陽リリさんには独唱が似合いそう。
ステージの上で一筋のスポットライトを浴びて、こちら側と目を合わせながら、たった一人であることを否定するかのように我々に向かって歌で訴えかけてほしい。これは総括というより願望です。高音が美しい人は独唱が映えるので……。


おわり

ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は剣持刀也さんのセカイ再信仰特区、夕陽リリさんのジェヘナのcover動画を初視聴して感想と好き勝手妄想考察をさせて頂きました。
これらは正解を当てに行ったというよりも、「初見が聞いた時にこんな世界が見えたよ」というものなので、寛大な心で楽しんでいただけていたのであれば幸いです。

私は歌を好むので、その他にもおすすめの歌動画があればどなたか教えていただけると嬉しいです。
また初見歌感想散文を書き残すことが出来たらいいな。

いいなと思ったら応援しよう!