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松雪泰子さんについて考える(05)舞台『吉原御免状』

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:8点(/10点)
上演年:2005年
視聴方法:DVD

★2024/10/25から「ゲキ×シネ」で上映されることが決定★
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
※上演当時に会場で観たわけではなく、DVDで視聴した感想です。
 
松雪さんの舞台出演2作目にして、劇団☆新感線初出演となった『吉原御免状』。
 
劇団☆新感線は、業界内では動員力が桁違いの、言わずと知れたモンスター劇団。ドラマ・映画の主演級を客演に招き、それがまた動員力に拍車をかけ、キャパの大きい会場でとんでもない数の公演数を重ねる。しかもそのほぼすべてを完売させる、まさにキラーコンテンツ。
 
人気なのは出演者だけではない。笑いあり、派手なアクションあり、オリジナルの歌あり、ダンスあり、殺陣あり、豪華な舞台セットあり…。とにかくここでしか観られない、スケールの大きいお祭りのような豪華さを誇る。
 
そんな新感線の王道のような舞台を、2010年代に劇場で2~3作品観劇したことがあるが、正直、個人的にはどれも好きになれなかった。完全に個人の好き嫌いの問題だが、どこで笑えばいいのか、どこに感動すればいいのか全く分からないまま、3時間近くに及ぶ上演時間を過ごした覚えがある。ウケねらいのシーンはすべて空振りに見えたし、出てくるキャラクターもみな軽薄に感じた。
 
しかし、本作『吉原御免状』に限っては、歌なし・笑いネタなしの異色作。江戸時代の吉原を舞台にした、おふざけなしの時代劇。"いつもの新感線"が好きなファンからは賛否両論ある作品のようだが、個人的にはこのような作品の方が好き。新感線には、この路線もたまには取り組んでほしいが…。
 
主演は堤真一さん。宮本武蔵の薫陶を受けた侍・誠一郎役。とある目的で江戸・吉原に赴くのだが、そこに登場する遊女・勝山太夫役が松雪さん。
 
物語の主軸は、吉原の放逐を企む集団と誠一郎(堤)との闘いだが、サブストーリーとして、誠一郎(堤)と勝山(松雪)の色恋沙汰、誠一郎(堤)の出生の秘密、吉原と幕府・将軍家の隠された関係性等が展開していく、重厚な内容。各登場人物の背景がしっかり描かれていて、深みがある。そのぶん、説明しなくてはいけないことが沢山あるので、役者のセリフがやや早口に感じることが多い。これは新感線作品あるあるだと思う。
 
遊郭のセットが素晴らしかった。回転盆のステージをうまく使って、奥行きのある本物さながらの見た目が再現されている。
 
松雪さんの演じる遊女(太夫)は、艶やかな花魁でありながら、吉原を攻める集団とも関係性を持つという、二面性のある役柄。それゆえ、一人二役的な演じ分けが堪能できて面白い。ある場面では官能的に、またある場面では任侠的に。
 
舞台ということで、映像作品のときと声が全然違う。舞台ならではの張り上げた発声によるものだと思うが、役作りの一環で根本的に声色を工夫している感じがする。それだけでなく、シーンに応じて声色に変化を持たせている。これはなかなかできないと思うし、現に、この舞台に出ている芸達者な役者陣の中でも、ここまでしている人は見当たらない。
 
官能的なシーンが何度かあり、松雪さんが体当たりの演技を見せているのも見所。ドラマ・映画では味わえない、舞台ならではの気迫を感じる。
 
松雪さん以外の役者も豪華。新感線ではお馴染みの古田新太さん・橋本じゅんさん・高田聖子さん・梶原善さんは手慣れた立派な演技。オヒョイさんこと藤村俊二さんも秀逸。
 
主演の堤さんは、終盤の鬼気迫る演技が流石。ただ、侍姿・和装よりも、シャキッとしたスーツ姿の方がやはり似合う気がした。
 
それにしても、堤さんと松雪さんの共演は、どの作品も見応えがある。映画『MONDAY』(2000年)での官能的でハードボイルドな共演シーンも、『ビギナー』(2003年)でのコミカルな会話劇も良かったが、この『吉原御免状』での共演にも心掴まれる。後年の映画『容疑者Xの献身』(2008年)では、終盤の共演シーンが素晴らしかった。どの作品も全く異なるテイストなので、見比べると面白い。(ちなみに、舞台『シダの群れ』(2012年)、舞台『るつぼ』(2016年)は今となっては観る術がなく残念。)
 
松雪さんは本作を皮切りに、数年おきに劇団☆新感線からのオファーを受け(むしろ本人が出演を希望しているらしい)、最近では2022年『神州無頼街』に出演している。新感線作品は「ゲキ×シネ」として映画館で上映されたり、オンデマンド配信で視聴できたりと、過去の作品でも観るチャンスが残されているのがありがたい。

*このシリーズの記事一覧はこちら*

*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

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