ドラマ・映画 感想文(39)『3000万』(第4話まで)
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※良い面だけでなくネガティブなことも書いておりますので、ご注意ください。
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こんなに不道徳でアングラな内容を、NHKが扱っていることが意外。
不穏な空気を漂わせる演出。例えばロールケーキを貪る祐子(安達祐実)、うまく焼けない目玉焼き、排水溝を堰き止める残飯。
お金を嗅ぐシーンが何度か出てきたが、何かの伏線だろうか。
京鼠色なエフェクトのかかった映像が緊張感を増幅。
こうして見ると、全体的にWOWOW作品感。あの系統が好きな人は気に入るはず。
しかし、ストーリー展開にやや難あり。
3000万がヤバい金であることは直感的に分かるはずだが、この夫婦はそうした恐れを全く抱くことなく金に手を付けてしまった。展開がちょっと強引ではないか。
その後も、衝突事故の相手に病院で警察の警備をかいくぐって接触しようとしたり、自宅にかくまったりなど、あまりの大胆さに首を傾げたくなる場面が続く。フィクションだからと割り切っていいものかどうか、微妙なところ。
ただ、言いたいことは分かる気がする。ちょっとした嘘のつもりが、それを糊塗するため、ドミノ倒し・雪だるま式に多くの辻褄合わせが必要となり、どんどん深みに嵌まっていく。その怖さを描きたいのだろう。誰しもこんな事態に陥る可能性があると。
つい最近別の投稿で書いたことだが、犯罪者や刑事被告人は、環境・境遇がそうさせてしまった面が強いと思う。本人の理性に裏打ちされた規範意識・能力・性格よりも。
もっというと、規範意識・能力・性格は、環境・境遇による偶発物でしかないのではないか。
つまり、犯罪者もそうでない人も、たまたまそういう人生になっただけで、運に過ぎない。最近よくそんなことを思う。このドラマを観て尚更。
この夫婦だって、元はただの夫婦だったではないか。子を庇う必要に迫られたこと、そして金に目が眩んだことは、決して帰責性ゼロではないが、誰しもこうなってしまう可能性が日常に潜んでいるだろう。
第1話の冒頭が示唆的だった。駐車場で白線からはみ出して車を停めた祐子。しつこく二度も注意した警備員の存在は、見方を変えればなんと有り難かったことか。「こんくらい別にいいじゃん」と甘く見て一線を越えると、やがてとんでもないことになる。そんなアレゴリーだと思う。
それにしても青木崇高さんが上手い。「邪神の天秤」(2022年、WOWOW)で演技力に驚嘆したことが今作を観る一番の動機だったが、やはり期待どおり。軽薄だが憎みきれないキャラクターの、バランスが見事。
安達祐実さんに関しては、表情や所作はさすがだと思う。ただ、独特の高くて柔らかい声が、緊張感あるシーンではミスマッチに聞こえる。昨年(2023年)の映画『春画先生』でも同じことを思った。シーンに応じて声色に工夫があってもいいのでは。