ロシア中央銀行総裁エリヴィラ・ナビウリナの孤独な戦争(前編)〜いけ!いけ!ぼくらの新自由主義者(ナビ公←c.v.渡辺久美子) …2022/7/27カクヨム初出
【2025/1/9補足】
この話は2022/7月(開戦より五ヶ月後)にカクヨムに俎上した内容です。当時のワイは「開戦から半年後には国力低下によりウクライナ全土の征服を諦めざるを得なくなる」と推定し、また一年後以後はロシア経済がかなり苦境に立たされるだろう…と読んでいました(←実際には12ヶ月〜18ヶ月ほど後ズレ)。
しかし開戦から五ヶ月後に「思ったよりも持ちこたえている…」と思うようになり、その理由を調べてみた結果をレポった内容がこちらです。
結論からいうと、ズベルバンクというロシア民間銀行(しかし事実上、国策銀行)の中で、主に欧州で販売した石油や天然ガスの支払い代金(この場合はドルなど西側通貨)をズベルバンクの内部処理として「殆どの売上収益を強制的にルーブルに換金させていた」というカラクリがあったためにロシアは十分に持ちこたえることが出来た…という内容です。
ドイツなどでは値崩れしたロシア産原油や天然ガスを購入しつづけ、その代金はスポット価格でちゃんと支払われてました。エネルギー資源に関してだけは欧州での影響を考え、制裁がユルかったのです。このため支払いもありました。この西側からの支払金を強制的にルーブルに置換していたということです。
この意味は「ドルでルーブルを買い支える」もしくは「ドル資金がロシアに投資されている」という意味そのものです。
これは驚くべき手法で、数十兆円規模でこのペテンをやり始めたのは歴史上、今回のロシアが最初であり、こんな悪知恵を考え出したor実行できたのも「国家(インフレ)は全て貨幣的現象に過ぎない」事を知っている新自由主義的な発想があったからということで、通貨管理の主体者であるロシア中銀総裁ナビウリナあたりがァャシィ…という程度の内容です。
しかし、あまりにも鮮やかなこのペテンは2024年秋くらいまでは十分に有効に機能していました。当時はロシアだけが経済的に安定していた事実からもわかります(他の国はインフレで死にかけてた。ただし不動産バブル崩壊起こした中共は除く…)。本来、即死していたロシアを3年にも渡ってゾンビ戦士化していたその手法について、以下に解説いたします。
なお、現在からすると一部、内容に不整合があるかもしれませんが、当時の雰囲気を残す必要から原文のままUPいたします…m(_ _)m
○超有能なタタール女、エリヴィラ・ナビウリナの苦闘
いまだに全く判らないんですが、なぜか突然ロシアがウクライナに侵略戦争始めて、はや五ヶ月…。世界は大混乱し、激しいインフレにも悩まされるようになっています。まだ日本はいいほうですが、欧米では「2年前に比べて食費が二倍、光熱費が二倍。家賃が二倍でガソリンは1リッター300円」がすでに当たり前。しかも来年はさらに倍…という、もはや地獄(T_T)。ハッキリとした将来像は見えないんですが、大体、こんな感じになりそうです…m(_ _)m
6/9の時点における2022年下半期の予想…m(_ _)m
https://novelup.plus/story/859734330/727731824
内容は簡単で、ロシアへの経済制裁と戦争による物流の混乱でまずは西側で激しいインフレが発生して地獄を見るのが2022年後半。ロシアは戦争する国力自体を失い(戦争しないので)むしろ西側よりも安定した「動きのない時期」がこの時期。しかし2023年になると全世界で高インフレが定着し、ロシアへの経済制裁と相まって春先くらいからインフレ圧力が躪《にじ》り寄ってきてジリジリと厳しくなっていく「ロシア悶絶のターン」の始まり…程度の内容です。とはいえ皆さんは、
あれっ? 露助、なかなかくたばらないな…(๑¯ω¯๑)?
てか、なんでロシアこんなに頑張ってんの…(눈‸눈)??
…と焦れているかもしれません。一昔前なら「3月中に即死」という話もあったくらいなのに「結構頑張ってるね(^^)/」な感じです。ワイなんかも「3/3にロシア死亡」と診断書を書いています。ワイは「ロシアは生きているのではなく、現在、ゾンビ」と断言していますが、「そうは見えない」という人たち…特にトランプマニアで反ワクチン派の陰謀論が大好きな人たちは勢いづいているかもしれません(困惑…)。なので「なんで露助、死なないの?」の頑張ってるカラクリについて話をしようと思います。一言でいえば…
ロシア中銀総裁エリヴィラ・ナビウリナという偉大な新自由主義者(←多分そう)のおかげ
…たったこれだけです。思った通りの有能なタタール女でした。
ワイはこの本編で述べたように、空前の規模の経済制裁をうけた3/2の僅か半日で「ロシア死亡」と判定しています。確定です。誰が何を言ってもルーブルはもはや紙くずです。即死でした。しかし即死であっても屍体になったわけではありません。「国ごと死亡・まるごとゾンビ」化しただけです。ロシアは自分たちが既に死んでいて、腐っているにも関らず痛感神経までもが死んでいるために匂いも痛みも感じていない…という状況なだけです。
そして、この屍体を動かすという奇妙な「外科手術」を施したのがナビウリナです。
そこで死者をかりそめの間でも生き返らせるという奇跡の黒魔法を使った新自由主義者(←だろうと思うんだよね、多分…)の露中銀総裁ナビウリナが何をして、今後、何をやろうとしているのかを探ってみたいと思います。まずは彼女の経歴から探ります。
○偉大な改革者にしてロシア現代化に尽力した素晴らしきリベラリスト
国家をカネで見る時、最も重要なのはその国の中央銀行の政策です。中銀とその金融政策はその国の特徴を端的に示しています。政治家や官僚組織、民間の尻拭いをせねばならない立場であり世界的な影響力も大きいからです。そのため「動きを押えておくべき」中銀がいくつかあります。言うまでもなくFRBとECBは必須です。次は世界最古にして常に新しい手段をもちいてくるスウェーデン国立銀行です。またYCCを駆使する日銀や、急激な成長と多額の債務に加え政治的な独裁からくる様々な大規模破綻に取り組まねばならない中国人民銀行もその一つです。
この他に「戦争しまくる国の中銀」があります。政府がバカor国際状況を改善する能力に欠けているために常に準戦時下にあり、このために莫大な戦争経費負担〜特にインフレに対処する必要に迫られている中央銀行です。代表的なのがイスラエル中央銀行とロシア中央銀行です…m(_ _)m
しかし両者は対称的でした。どちらも激しいインフレ国家で庶民の生活苦がキツいのは共通してるのですが、イスラエル中銀は意外とクローズドで「何をやってるのか外からではよくわからない」のに対し、ロシア中銀は極めて民主的で中央銀行財務状況などの重要情報が丁寧かつ真摯に開示されているという驚くほど良心的な中銀でした。イメージとは違い、実はロシア中央銀行は「常に誠実」だったのです。この清廉で偉大なロシア中銀を作ったのがエリヴィラ・ナビウリナです。
彼女は極東のタタール人の血筋で「純粋なスラブ人」ではないようです。モスクワ大学経済学部を出たエリートですがスタンフォード大学やシカゴ大学・ロンドンビジネススクールのような世界的に著名な経済大学に留学した形跡は見つけられませんでした。また実家は普通の庶民であり、共産党のエリートの家系でもありません。よって彼女の本質的な学派は不明です。その後の経歴も少々混乱しています。もともと金融畑ではなくむしろロシア民間の産業振興政策を担当しており、2007年のズプコフ内閣組閣時も経済開発貿易大臣として入閣しています。
ただし興味深いのはゲルマン・グレフとの関係です。ズプコフ内閣直前のフラトコフ内閣の経済開発貿易大臣だったグレフ(つまりナビウリナの前任者)とは戦略研究センターという組織での上司と部下との関係であり、またグレフはプーチンの経済開発担当を担っていたプーチン派のブレーンの一人でした。
んで、グレフを一言で例えるなら竹中平蔵のようなヤツです(爆死)。一般的には「リベラルな急進改革派」と言われていますが、要するに「皆さんの大嫌いな新自由主義者」そのものです。グレフのやった事は大企業を中心とした法人税減税と規制緩和、民間活力の育成と競争の強化、資本主義の導入、なにより共産主義時代の悪弊だった土地公有制度の完全撤廃などで、ロシア経済はかなり順調に伸びましたが貧富の格差は爆増しています。それどころかグレフは政治家から転身してロシア最大の民間銀行・ロシア貯蓄銀行のCEOを10年以上も続けるという、まさにプーチン派のオリガルヒでした。
悪そーなやっちゃな…(  ̄ー ̄)y-~~
そんな感じです(爆)。でも有能。
当時のプーチンはエリツィン大統領時にのさばってきた旧来のオリガルヒ(古い方の派閥)を叩き潰す「民主改革派」だったので急進改革派のグレフなどとも親交があったようです。ただしWikiなどではプーチンと対立もしていたみたいな事も書かれていて、よく判りません。いずれ真実は明らかになるでしょうが、グレフとナビウリナが上司と部下の関係であったことから「企業」に関する認識は「こういう事」なのかもしれません(爆死
もう一人重要なのはエフゲニー・ヤシンという人物でナビウリナが師と仰ぐ人物です。彼もまた典型的な自由主義経済学派の人物でロシアの経済発展相も努めた人物です。国力の持続的な発展のために民間の産業・金融力の増強が必須とする考え方で、彼女の方向性とほぼ同一です。競争原理によって市場の自律的な発展と強化を目指す、これまた典型的な新自由主義者で、おそらくはヤシンの薫陶を強く受けていたのではないでしょうか? 彼女の新自由主義的な手法のルーツはこの辺にあると思われます。
ナビウリナはこうした経歴から、市場中心主義・資本主義肯定派にして新自由主義的な色彩の強い改革派でした。反共産主義・反ソ連の嚆矢だったことがプーチンの目にでも止まったのか、金融畑を歩んでいたわけでもないのに、どうしたわけか2013年にロシア中央銀行総裁に任命されます。とはいえこれはロシアにとって幸運でした。彼女は超有能だったからです。
○阿呆な男どものせいで、女はいつも苦労させられる…(うんざり
ロシア中銀の特徴は「常に準戦時下」での運営を強いられるということです。苦しい舵取りです。独裁者プーチンさんのせいでいくつもの紛争地域を抱えているためで、戦争大好きな「金遣いの荒い」プーチンの「私的な銀行」に成り下がった露中銀をどう維持していくかはナビウリナの腕の見せ所でした。課題は二つ。「米国債には頼れない」と「常にインフレ対策」です。
前者は米国との政治的対立のためです。米国債は非常に有力なツールで、特に「持ってるだけで配当金をくれる」ありがたい資産です。たとえば日銀は大体120兆円規模で抱え込んでいますが、2022年のように米国長期金利が3%にも達するという状況では単純計算で1年で4兆円前後の配当が見込め、円安ならば更に配当金が増えます。仮に4兆円の配当があるのなら、中銀は理論上この4兆円分のカネを市場にばらまけることになり、日本のように貨幣定数が1.8と大変低い国においても市場に7-8兆円規模の金融緩和をできることになります(例えば…の話)。また撒かなくても中央銀行の資産として溜め込んでおけるのです。「夢の配当金生活ヽ(^o^)丿」ということです。
なので配当金を産まない実物資産のGoldよりも遥かに価値があるということです。しかし米国との政治的緊張関係があるため米ドル資産の蓄積は突然の金融制裁によって絶たれるリスクがあり、実際、今回そうなりました。彼女らの目論みとしては米ドル資産はギリギリまで保有し稼ぎを得る一方で、最悪時に備えて一気に処理できる程度に抑え込む。と同時に他の国の債権等で利益を確保しようと頑張る資産分散投資に努めました。あわせてGoldも大量に購入しまくりました。たとえ配当金を産まなくてもGoldは21世紀になってから常に価格は上昇のみで、実際、四倍程度の価格上昇を見ているので「持っていても損はない」資産ですし、ルーブル防衛の最後の切り札としては使える「担保」にはなります(←実際にはそうならなかったのですが…)。そのため露中銀のGoldの保有量は全資産の20%を超えるほど巨額で、これは米国と問題を起こしそうな国〜たとえば中国やインド、ポーランドがそうでありロシアもこの流れに沿っていました。
後者のインフレ対策とは常にプーチンが戦争始めるので物不足や戦費調達、果ては西側からの経済制裁などによる物資・資金流入不足に備えた金融政策の実施が含まれます。この一貫として2014年には通貨バスケット制を辞め、変動相場制へと移行するという大胆な策に打って出ます。
お見事でした…m(_ _)m
これはロシア産業界の振興のために海外からの投資の促進や対外貿易力の強化、ドルなど基軸通貨の動揺に対してより柔軟な金融政策で対処することを可能とするための措置と思われ、ロシアが潤沢な石油資源を輸出できることから(年柄年中貿易黒字だらけのオーストラリアのような資源国通貨と同様に)ゆくゆくは「柔軟で強い通貨」に育てていけるという判断があったのは間違いないでしょう。
通貨バスケット制の問題点は、たとえば米ドルが勝手に上がっていった場合〜現在のように米国金利がグイグイ上昇していった時、自国の経済状況とは関係なくドルに引っ張られて金利が上がっていくために、もし輸出力などが劣化したデフレの時だと(自国通貨が割高になるので)輸出力が勝手に減ってしまい、逆に輸入は増えていってしまう…という危険性や、自国の金利も上がるので民間の貸出金利や個人の住宅ローンの金利なんかも上がってしまい深刻な景気後退や信用不安を引き起こしかねません。他にもいろいろと金融的なリスクがありますが、最大の問題点は「金利を自分の国で管理できない」ということで、このリスクを避けるためにナビウリナが一気に強い手に打って出たものと思われます。彼女の英断であり、なんのかんのいっても2022年までルーブルが暴落を抑止し、堅調な動きを見せていたのもこの決断のおかげです。
とはいえ2015年のクリミア侵攻のために経済制裁を受け、同時にクリミア及びドネツク人民共和国(ロシア側呼称)・ルガンスク人民共和国(同)での戦争と復興支援のために慢性的なインフレ状態(常に10%以上)であり続けた事は、やはり露中銀の金融政策に難しさを与えました…( ・ั﹏・ั)
ここで戦前のロシアの金融財政を軽く見てみます。ロシア政府はプーチンの対外積極策のために国防重視の極端な緊縮財政政府です。福祉などは切り捨てに近く、時々、プーちゃんの支持層である年寄りたちのご機嫌伺いに年金支給率を上げたりするくらいで、基本は重税国家であり所得の20-25%は取られるようです。他方、政府の債務(日本で言う国の借金ガー)はそれほどなく、多く見積もっても40兆円程度の海外流出分債権および外債があるとされています。今後、
クレムリン「実はこんなに借金ありました…(ノω・)テヘッ」
…になるかもしれませんが、今の所は「極めて健全」といえます。要するに戦争する時に借金抱えていたら戦争できない→なら財政健全だ(キリッ)…というだけのことです。
この反動があります。国内産業が思ったほど育たなかったということです。
ロシアの輸出構成を見ると七割が石油・ガス、残りの二割弱が農産品という「地面の下」にしかカネになるものがありません。「ほじくり返すだけのお手軽なお仕事」国家です。
この長年の緊縮財政政策のために、たとえば日本や現在の中国のように、政府が積極的な債権発行(=カネばら撒き)によって国内に資本とインフレをばらまいて、その結果、「国内産業が最初は海外技術の移植→国内産業へのスピンオフと産業の民族化→国内市場の育成→国家産業力爆増(でも借金まみれ)」…という国力増強が不可能になりました。これは恐らく新自由主義者のナビウリナが「本当にやりたかったこと」だろうと思われます。中国の発展を横目で見て、さぞ羨ましかったでしょうね。同時に年率10%にも達するインフレと不十分な国民福祉のために国民の多くが貧しく貧富の格差も大きいために、産業基盤の勃興も不可能になりました。国民資本の蓄積ができず、このため民間金融機関の貸出・投資余力が小さいために産業がますます育たなくなったのです。
この「ばら撒き型産業振興策」を採用しなかった緊縮財政国家・ロシアは2022年にツケを払うことになります。自国内で必要な産業が十分育っておらず、第二次産業製品の多くを輸入に頼るしかない脆弱な経済体制のままなのに、クリミア紛争時以来の欧米の経済制裁に加えて今回の徹底した経済制裁のため、物価は急騰。そもそも生産資源そのものが手に入らなくなり、民間はおろか軍事ハイテク系素材の入手まで困難で戦争資源の増産もままならないほどです。
他方、金融自由化によりプーチンらの「ドルへの依存から脱却する」とは裏腹に対外取引の50%近くがドルベースでおこわなれるほど金融の民主化は進んでいました。原油価格の高騰による黒字収入はルーブルの押し上げに貢献したものの、輸入が相対的に増えた(ルーブル高なので海外製品を買いやすい)事や原料以外の輸出製品の下押し圧力になったものと思われます。特にこのルーブル高のせいで生産設備などの海外依存度が高まりました(およそ80%が海外製品)。
ロシアの製造業の問題は「産業技術の多くを海外先進国に依存している」「そのくせ経済制裁食らってる」「生産性が低い」「計画経済の頃の体質が抜けていない(現場の管理意識と技術が低い)」「品質管理が悪くオリジナリティも弱い」ということが言われていて、たとえば高度軍事技術以外の民間中小企業などの製品設計能力などが低いとされています(でも海外に出ていった技術者は結構有名なアプリを開発したりもしているんですが…)。要するに海外製品の代替品を独自に開発する能力に欠けているということです。代替製品の国産化が進んでいないのです。
こんなに経済体制で…特に要の第二次産業の弱い国なのに戦争が継続できた背景には、「短期間で一気呵成に終わらせる→カネの負担が少なくて済む」の戦争戦略の他に、ロシアの莫大なエネルギー輸出の一部をほぼ強制的に徴収する受け皿となってる「国民福祉基金」という名の「戦争資金を捻出する打出の小槌」を持っているから…という話を以前しました。ここが戦費を捻出し、毎年のエネルギー黒字で補填するというやり方を採用していたからです。これなら国家総力戦でなければ十分耐えられるだけでなく、戦後復興でも意外なほど速やかに占領地域の町並みがきれいになってるのも、こうした隠し財産があるからです。
一気呵成に戦争に勝利(=カネ、そんなに使わない)
→戦後復興は石油輸出のカネをアテる(=カネ、定期的に補充できる)
→「ロシア凄い!」になるヽ(^o^)丿
…という、まさに「戦争はカネ」を地で行くやり方がプーチンの手法です。短期決戦だけが唯一の手段です。カネだけで考えればそういうことでした。国力がないのだから他に選択肢はなく、シリアなどへの介入は「カネでやりくりできる範囲で」やるという、実は結構ケチくさく、しかし手堅い戦争経営でした(頭は良いけど…)。
ところが2022年のウクライナ紛争はロシアにとって前代未聞の失敗に終わります。ウクライナ全土の早期征服が失敗し、ロシアにとっては最悪の大規模経済金融制裁パッケージ+戦線の泥沼化という地獄の消耗戦に突入しました。もはや国家総力戦の状況であり、「総力戦に移行した場合、GDPで劣る国が勝る国に勝った試しはない」の状況に陥り、しかもプーチンは国内の反発を恐れるがあまり「ロシア全土の戦争経済化」…つまり国家総力戦体制に移行することもできません。これでは敗けるに決まっているのですが…?
この混乱した未曾有の危機に際し、ナビウリナは一度、辞表を提出しています。その真意は不明です。本当に辞めたかったor戦争に反対の意思を示したのか、さもなければ「自分には戦争責任はない」というつもりのブラフだったのかは判りません。辞任はプーチンに拒絶され、再びロシア中銀総裁のままこの戦争に突入します。
お気の毒様…m(_ _)m
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続く中編・後編では、ナビウリナが採用したロシア国家防衛金融戦略とその評価判定をしたいと思います…m(_ _)m
続きはこちらです…m(_ _)m