見出し画像

人工知能の電気代からわかるサム・アルトマンの先見性

テキストや画像を生成できるGPTモデルの威力は、毎日ニュースになるほどIT業界を席巻しています。しかし、生成AIのコストがどれだけかかるか、有力な生成AIベンダーのない日本ではほとんどまったく話題になりません。

機械学習用ツールベンダーのハギングフェイス(ニューヨーク)とカーネギーメロン大学の研究者によるレポートによると、サンプルデータセットによるテキスト生成1000回あたりの消費電力は平均0.002kWh、画像生成1000回あたりの消費電力は平均2.907kWhだそうです。

Power Hungry Processing: Watts Driving the Cost of AI Deployment?より

資源エネルギー庁によると、2021年の米国の産業用電気料金は7.3セント/kWhですから、テキスト生成1000回あたりの電気代は約2銭(1ドル150円として)です。一方で、画像生成は1000回あたり約31.8円になります。もしAIが稼働するデータセンターが国内にあった場合、我が国の産業用電気料金は14.7セントで米国の約2倍ですから、電気料金から考えて、AIの拠点を国内に設置するのはあり得ないとわかります。

画像生成1000回あたりの消費電力平均2.907kWhがどのくらいかというと、1枚の画像を生成するごとにスマホを1台フル充電するのと同じくらいの電気を使っている、と考えたらよいです。

サム・アルトマンの投資先

OpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、イーロン・マスク氏らとOpenAIを創業したひとりですが、米連邦議会で同社の株式は所有していない、と証言しています。しかし、アルトマンCEOはおカネがないから出資していないのではなく、ばく大な資産を別の会社に出資しています。日本人でも知っていそうな会社では、2020年まではソーシャルメディアのRedditの株式を所有(詳細未確認)していました。現在も所有していると思われる会社をいくつかリストにすると、以下のようになります。

  • Helion Energy: 核融合発電所の建設

  • Rain AI: 脳を模したエネルギー効率の高いAIチップ製造

  • Neuralink: 脳コンピューター インターフェイス

  • Humane: スマホ後のスマートデバイス

12月4日、OpenAIは上記の1社Rain AIのチップが販売できるようになった場合、5100万ドルぶんを購入する契約が成立した、と報じられました。一見すると、利益相反取引としか思えませんが、AIのコストとサム・アルトマンの投資先リストを眺めると、ひとつの世界観に基づくポートフォリオであることがわかります。

まず、一般ユーザーが手にするのはHumaneのスマートデバイスです。

ai pin

AppleがiPhoneをマイナーチェンジしながら延命させているうちに、手のひらをディスプレイにして、ジェスチャーや音声でインターネットのサービスを利用できるデバイスが登場しています。

脳コンピューターインターフェイスの技術が確立すれば、ai pinのようなデバイスは脳に直結して、念じるだけで操作できるようになるはずです。「文字を読む」「声を発する」という非効率な方法ではなく、コンピューターの速度で人間も考えるようになります。

このとき、膨大なテキスト生成、画像生成が必要になるでしょう。いまのAIでは消費電力が多すぎて、低価格にサービスを提供できません。そこで、低消費電力のAI専用チップが必要になります。Rain AIとOpenAIの契約は、そういう背景で考えればOpenAIに大きなメリットがあります。

さらに、安価な電力を核融合発電所で生産できれば、ai pinのようなデバイスを非常に安価に提供でき、ライバルは太刀打ちできなくなります。そういう世界観の中で投資先を選んでいると考えれば、サム・アルトマンの構想がなんとなく見えてきます。

攻殻機動隊でいうと、ポセイドン・インダストリアル的な企業の創業者がサム・アルトマンなわけです。こういう「世界観投資」は、SF好きのシリコンバレーならではですね。