テントラシード-人を旅する-
漆黒の空間が広がる、この空間が何処まで広がっているのかは解らない。息苦しさすら感じる黒い空間の真ん中には青白く光る機械にまるで生きている大樹の根のようにケーブルが張り巡らされている。
中央にあるモニターから声が聞こえる「Tentraアップロード」その機械から空無機質な低いうめき声にも聞こえる音が響き渡りそれが青白く光り出した、そしてその空間を光が包んでいく。
「ヨミ君、起きて下さい」
目を覚ますとホログラムに映し出された先生がチョークを飛ばしてきていたが僕には届かなかった。またあの夢だ学校のクラスには僕一人しかいない。学校も僕一人のためによくやるものだ。そんな事を考えている間も先生は怒っていた。この島には子供は僕一人だけテクノロジーが進んでこんな離島に先生が来なくてもいい。実際学校にも行かなくても家でバーチャルな学校に行けば友達も増えるのだろうけど。
「もう今日の授業はおわりにしますよ、いつも眠ってるんだからだからヨミ君もバーチャルの学校にいつでも転校できるんですよ」
またこの話だ僕だって行きたいよ。
「じいちゃんが許してくれないもん。今日はもう帰ります」
そう言ってランドセルを背負って教室を飛び出すと先生はまだ何か言っていたみたいだが教室を出ると学校のシステムが強制終了し先生の声も強制的にプツンと切れた。
学校を出るとセミの声ががうるさく夏の日差しはまぶしい太陽に向かって手のひらを出すとぼんやりと赤く僕の手を透明にする。太陽はすごいなと思って見ていた。いや、急いで帰らないとあのゲームをやる時間がなくなっちゃう。
家に着き庭なっているミニトマトを何個かつかみ自分の部屋に急いで入った。じいちゃんのガラクタの山からたくさんの使えそうな電子機器を集めてきたテレビをつけ作業をする。映画の宣伝だとかニュースだとか内容は大体GOGOSという大企業が作った没入型の電脳ダイブ型のバーチャルリアリティワールド、学校も映画館もまたや役所、仕事だってほとんどそこにある。GOGOSとつながらない世界なんてきっとこの島でさえも僕の家だけだろう。じいちゃんが昔から許してくれない。バーチャルの学校への転校の話で喧嘩してから二日ほど会話していなかった。じいちゃんは機械いじりは好きなくせに没入型のVRの話になると脳が腐るだの言ってすぐ怒る。そうこうブツブツじいちゃんの悪口を言いながら僕はPCの電源をつけたそして、今では誰も使っていない時代遅れのゴーグル型のVR機器をかぶりグローブをはめた。なぜかこの機器だけはじいちゃんは怒らなかった。
ブルーの世界が広がっているまるで海のようで海面からは大樹の根っこが広がっている。海上には大樹の木の部分にワールドがその果実の様にぶら下がり無数に広がっている実際本当に何万個とあるアマチュアからプロや企業が作ったワールドだ。GOGOSの元となった会社が作っていたVRゲームだ。もうプレイヤーは僕しかいない。ワールドを巡るのだけがこの島で僕の唯一の楽しみだった。
ログイン画面に入りゲームを見つけたときじいちゃんの家庭菜園の種の袋が転がってたからつけたユーザー名「SEEDR」とパスワードを入力する。
メニュー画面を開くと手元にスマホが出てくる。そこから行きたいワールドを選択して行きたいワールドに行ける。今日も適当に行ったことがないワールドに入る。
今回は海中のワールドだこのワールドには海底神殿なのかな?真ん中がホールのようになっていて真ん中には鏡がある。
GOGOSが管理する以前はアバターを自分でアップロード出来たらしい、自分で作ったアバターを見ながらみんなで話してみたいだ。
ネットで調べて知った文化だ。僕も自分でかっこいい猫の人型みたいなアバターを作って着てみたけど誰にも自慢できなくて悲しくなったの今でも覚えてる。それ以外は建物の外に飛行機のような潜水艦が何台か置いてある。一人乗り乗り物みたいだ。それに乗って僕はこのワールドを見て回ることにした。
海中だけど江戸の城下町のように提灯がぶら下がってる、オレンジ色に輝く明るい街が広がっている。
でも人は誰もいない、魚だけが泳いでいる。その神秘的ななにか懐かしい街に目を取られていると、何処から低い「ヴォー」という音が聞こえた。音の方を見てみると遠くに鯨のような物がいる、行ってみよう心が踊った。
乗り物に乗り込み、操縦席にある飛行機の棒のようなハンドル掴み、左にあったアクセルの様なレバーを前に倒すと一気に加速した。魚たちを通り抜けてどんどん進んでいき振り返ると街はもうかすかに淡い光だけが残っていた。
進んで行くといつの間にか海中をでてしまい、そこはもう宇宙空間が広がっていた。水中の街はまるで巨大な水滴の様にぷかぷかと宇宙空間に浮いていた。鯨は水中をではなく宇宙空間泳いでいる、まだ遥か遠くに。ここまで来たのなら絶対近くで見てみたい。僕の冒険心がくすぐられた。
ハンドルの中央に付いている赤いボタンがある大体こういったゲームに付いているボタンはワープボタンかダッシュボタンと決まってるんだと高をくくってボタンを押した。そうしたら案の定、ダッシュボタンのようだ。スピードはあがったものの、なかなか鯨に近づかない何か仕掛があるのかなと10分ほど待った。そうしたらいきなり鯨が大きく近くなり始めたバーチャルながらリアルな揺れを感じる。
本当は存在しない重力のような物を感じる。鯨は白く巨大だった。さっきの巨大な水中のワールドと同じくらいの大きさはある。背中には苔のような植物が生えていて建物が見える。着陸してみよう。棒のようなハンドルを上手く操作して巨大な鯨に近づいていく、近くによると苔の様な物は巨大な森だった建物に見えたものは石造りのコロッセオのような建物が緑に浸食されていた真ん中に灯のともった祭壇のような物が見える。
建物の上に乗り物を停めてて飛び降りることにした。祭壇に向けてまっすぐ飛び降りると地面に着地使用とすると周りのツタや木の根、あらゆる植物が祭壇にむけて一気に浸食しはじめた。着地したかと思われたが地面をすり抜けて植物のトンネルの様な物を滑り抜けていく。高いとこをから落ちる時のおなかの下の方がぎゅっと締め付けられる様な感覚に襲われるが、ゲーム仕様上、着地時にはふわっと浮き上がる。
落ちた先は青色に光る苔に覆われた鍾乳洞のような洞窟だった。すぐに目の先にはゲームお決まりの宝箱がある。さっそく宝箱を開けてみると。目の前に大きな文字が浮き上がる「ミッションコンプリート」いつものギミックだ。この世界に没入してたのにこれで現実に戻される気がする。あきれていると視界の中にトロフィーのアイコンのような物が出る指でそのトロフィーをタッチしてみると視界に文字が流れ始めた。「トロフィーコンプリートプレゼントをお送りします」ただそれだけだ。いろいろアイテム欄を探ってみたら卵があったアイテムのなまえは「none」となっていた。卵をアイテム欄から出してみた。名前をつけるのかな、いつも夢で見る名前「tentora」にしてみることにした。
名前をつけると卵が割れるそして卵は消滅した。つまらないな、そう思っていると現実の部屋のドアがいきなりバタンと開いた。じいちゃんかなと思いVRゴーグルをはずすと股の下を風のような何がが通り抜ける。
なんだ、振り向くと何もいないがそこに何かいるのを感じる。さっきの卵と関係があるのかもしれない。そんなはずがない、あれはゲーム中の話だと自分に言い聞かせるが、確実にそこに何かがいる。ゴーグルをかぶり現実の世界がカメラで映し出されるモードにする。
そこにはまるいエメラルド色に光ったなにかがいた、それに驚いてしまい僕はのけぞってしまった。球体は近寄ってきて「大丈夫ですかヨミ」と話かけてきた。
「きみはだれ」
驚きすぎてそんな言葉しか出てこなかった。
「僕はヨミ専用のAIのテントラですよさっきなまえをつけてくれたじゃないですか」
テントラいつも夢に出てくる名前でもヨミって僕の名前を何で知ってるんだろう。
「ヨミって、僕の名前なんでわかるの?それにおかしいじゃないかゴーグルをかぶってなくても僕は君がそこにいるって感じた」
そうするとテントラと名乗る球体は表情はないがなにか困った様にみえる。
「ヨミのためのAIなんです。ヨミのお父様が作られた。私はヨミのためだけの物なのです」
お父さんなんていない。小さいときに僕を捨てていった。小さな時のかすかな記憶と僕の宝物の父の写真でしか、でもその写真ですら、猫をなでていて下を向いるから顔も解らない。
「でたらめなこというなよ」
怒りにまかせて僕はゴーグルを顔から剥がし投げつけてしまった。投げつけた先には、猫がいた。
だけどゴーグルは猫の体を通り抜けた。その猫は父がなでている写真の白い猫そっくりだった。
「驚かせてごめんねヨミでもお父さんが君のために僕を作ったんだ。たぶん」
「そんなわけないだろお父さんなんか僕にはいない。もう死んじゃってるんだ」
猫は悲しそうな顔をしているその声は猫の声帯から発せられているのではなく僕の頭の中で響いている。猫は話を続ける。
「お父さんは生きているよヨミに来てほしいから僕がここにいる着いてきて」
そう言うと猫は小走りで走り始めた。
「待ってよ」と僕は猫を呼びとめたがチラリとこちらをみて「お父さんに会いたくないの」と言った会いたい会ってみたいに決まってるこんな島に何で僕を置いていったか聞きたかった。
猫について行くとそこにはじいちゃんのぼろ船があった絶対に僕を乗せてくれなかった近寄らせてもくれなかった。こんなぼろ船でなんかどこへにも行けないよ。猫はふねへと軽々と飛び移った。だが船に渡る板をじいちゃんがどこかへ隠しているので船に乗ることが出来ない。
「待ってテントラ!僕もいくよ」
テントラが「大丈夫だよ」と言う船のエンジンが動き出したのか、船に明かりが付きぼろ船とは思えない乳白色のタラップが自動で僕の足下まで伸びてきた。
ぼろ船に乗り込むと外装とは全く違う乗り込んだ瞬間豪華なクルーザーになっていたまるでゲームだ。びっくりしているとテントラが猫の姿でクスクス笑っている。
「ホログラムだよ」
「知ってるよそんなの」こんなすごいホログラムなんて見たことない学校での先生のホログラムなんてどこから見てもホログラムだって解る。これはまるで本物だ。テントラが「こっちにきて」と船室に入っていく中には乳白色のソファーにテーブル、キッチン、冷蔵庫まるで家だ。いや家よりすごいかもと感動してしまった。テントラがテーブルに上がり肉球で何か押している。そうするとテーブの真ん中が空き、乳白色の卵形のケースが出てきた。
「これをつけて」猫が指さしてる笑えるいやそれどころじゃない。ケースを取ると真ん中にボタンがある親指で押してみるとボタンが蒼く光りケースが開いた。中には、コインのような物が入っていた。ネットで見たことがある没入型のVR機器だ。
「ココに寝てから着けてみて」とテントラがベッドの上に乗って言う。
憧れの没入型VR僕は後先考えずベッドに寝てそのコインの様なVR機器をこめかみにつける。何で出来てるのか解らないけど吸盤のように吸いつき、こめかみにくっついた。さぁこいと勢いで着けてみたけど何も始まらないし何も変わらない。
「テントラなにもかわらないよ」
「こっちに来て」とテントラは船室をでる僕はテントラについて行くと船は就航していたもうぼろ船ではなく豪華クルーザーだった。
「海を見てごらん」
船から海をのぞき込むとそこは海だけど海じゃなかった海の底までみえ海の中ではゲームの中にあった海中都市が光り輝いていた。
「あそこにお父さんがいるの」
テントラはニコニコしている。
「行ってみないとわからないよ」
そう言いテントラは僕に飛びかかってきた。僕は驚いて船から落ちてしまった。水面に落ちた感覚はなく水中に浮いている。テントラも横で浮いていて何かを指している。
「あそこ」
そこにはゲームの中でみた巨大な白いかげが遙か遠くに。でもすぐ近く見えるくらい巨大な鯨が優雅に泳いでいた。