SENSHU RUGBY 2019 ~ 開幕戦(大東文化大)プレビュー
7月7日、都内ホテルで行われた盛大に行われた「専修大学体育会ラグビー部 創部90周年記念祝賀会」の壇上で、村田亙監督は今季の目標を「大学選手権出場」と宣言した。
これは客観的に見ればかなり高いハードルだ。
リーグ戦の大学選手権出場枠は昨年に引き続き3。つまり3位以内に入らなければならない。
長らく2部に低迷し、やっと1部に昇格、残留したチームがそこまで辿り着くのは並大抵のことではないが、かといってまったく不可能な話ではない。
間もなく開幕するラグビーワールドカップ。ジャパンの目標はベスト8だ。前回大会で南アフリカを撃破して世界中を驚かせたジャパンはこの勝利を含めて3勝をあげたが、結局、予選突破はならなかった。
しかもそれ以前の戦績を見ればワールドカップではわずか1勝。ニュージーランドに145点を取られて負けたこともある。
だが、この4年間、厳しいトレーニングをし、また選手がスーパーラグビーに参加することで個々の能力をあげた結果、「ひょっとするといけるのではないか?」というムードが醸成されつつある。
このジャパンのベスト8と専大のリーグ戦3位以内は困難さの確率としては同程度ではないかと思う。
今季は村田監督が就任して8シーズン目。一時は2部5位まで落ちたチームは着実に成長してきた。その歩みのスピードは速くはないが、チームを根本的に立て直すにはそれぐらいの時間は必要だった。なにしろ、今でこそ黄金時代を築いている帝京にしても、岩出監督が就任してから初優勝するまでの間は12年かかっているのである。
ただ、専大が必死に努力をしているのと同様、他大学も同じように努力している。
これはあらゆるスポーツに言えることだが、世界の中でももっとも深刻な少子化に直面し、その影響をもろに受ける大学において、カレッジスポーツは格好の宣伝の場だ。それだけに各校が目の色を変えて激烈な競争をしており、生半可な努力で勝ち抜くことはできない。
ワールドカップに3大会連続出場した村田監督は、自らがトップアスリートだったたけに、そのことはよくわかっているし、勝ち抜く術も知っている。
今季は過去7シーズンの蓄積を踏まえ、次なるステップへチャレンジするシーズンとなる。
そのリーグ戦を占う前に、まずは春シーズンを振り返ってみよう。
春季大会は初戦で中央に惜敗したものの、続く成蹊、日体、関東学院、立教に勝ってカテゴリーC(春季大会はリーグ戦、対抗戦の区別なく、順位によってカテゴリーA~Cまでに分けられている)で優勝した。
今季の専大は過去2年の成果(1部昇格、2勝して1部残留)の原動力となった2016年入学組が最終学年を迎える。
ただし春シーズンは、この中核メンバーに少なからぬケガ人が出たため、3年以下の選手に出場機会が恵まれた。が、これはこれで新戦力が発掘でき、悪いことではなかった。なにしろ今季は昨年に引き続きジュニア選手権もBグループ(流経、筑波、法政、日大と対戦)に所属するだけに、全体的な戦力の底上げは必須なのである。
そんななか、優勝の立役者の一人となったのは、スクラムハーフの友池(1年)。城南中→東福岡は村田監督と同じ経歴で、専大にとっては久しぶりの高校日本代表。春季大会でいきなりレギュラーの座を掴むと俊敏な動きでキャプテンの郡司とともにフォワード・バックスを自在に動かした。
友池はパスのスピードも速いが、なによりラックからボールを掻き出すのが速い。混乱した状況の中でもボールをきちんと掴むことができるのは少年時代に空手をやっていたこととも関係があるかもしれない。
専大のラグビーはピッチの横幅を最大限に使ってバックスを走らせるスタイル。フランス流のシャンパンラグビーが村田監督の目指すところ。そのためにはラックが成立した瞬間、一刻も早くボールをバックスへ供給する必要がある。ここで時間がかかると、相手のディフェンスラインが揃ってしまう。またちょっとした遅れが生じてしまっても、CTBやWTBがトップスピードで入ってくることができなくなる。その生命線となる最前線でのボール奪取能力の高さは、昨年のキャプテンだった高橋昂平(東芝)の卒業を十分以上に補える存在。
また、同じく東福岡から入った古里(1年・FB/WTB)も春からAチームになじんだ。
この他、昨年の入替戦でAチームデビューを果たし、鮮烈な印象を残した花田(3年・WTB)が順調に成長、身体能力を生かした迫力ある走りはサインプレーにも自在に対応でき、夏井勇大、水野景介という昨年のレギュラーを脅かす存在になった。
また、昨年、キッカーとして高い成功率を残した松浦が5年で残るものの、檜山(3年・FB)が台頭。もともと高かったランニングスキルに加えてキックの成功率もアップ、バックスラインの中核選手に成長した。
1年生のレベルは全体的に非常に高い。これまで春のBチーム、Cチームの試合はなかなか難しいものがあったが、今季は上級生とともに専大のラグビーに十分なじむことができていることが能力の高さを示している。彼らを擁してジュニア選手権も昨年(Bグループ最下位)以上、Aグループとの入替戦を目指す。
とくにPRには有望選手が多くポジション争いが激化しているのだが、こんなことはおそらく専大ラグビー部史上初めてのことだろう。
ここまでポジティブな部分を書いたが、課題はもちろん多い。
春は春季大会の後に帝京、東海と練習試合をしたが、やはりトップチーム(といっても相手はBだが)と試合をすると弱点が露呈する。
とくに東海戦ではラインアウト→モールで大量失点した。モールは近年の最大の課題だが、これがまだ克服されていないのは心配の種。この対策が夏の間にどこまでできているか。
帝京との試合ではこれまでの相手にはないインテンシティ(プレーの強度)を経験。ほとんどラックも形成せず、息もつかせぬスピードで縦に二の矢、三の矢と入って来る攻撃に手を焼いた。ただし、慣れてくると持ちこたえることができただけに、リーグ戦においても前半の早い時間をとにかく粘って失点を最小限にとどめることが重要なポイントになる。
開幕の大東戦。発表されたメンバーは以下のとおり。
1.石田 2.宮本 3.栗山 4.山極 5.西尾 6.折居 7.西小路 8.佐藤(匠)
9.友池 10.郡司 11.水野(景)12.夏井(大)13.平山 14.夏井(勇)15.古里
16.檀野 17.小栗 18.森重 19.石井 20.熊谷 21.片岡 22.松尾 23.田邊
FW1列は昨年と同じ。石田は春シーズンはケガで出場していなかったが夏に復帰、1列の強さは過去最強レベルといえるだろう。
LOは197cmの山極が健在。西尾は春シーズンにレギュラーを掴んだ。
FW3列で昨年からのメンバーは佐藤のみ。その佐藤も春は欠場して夏にやっと復帰してきた。他にもレギュラーと目された志賀の名前がないが、折居の走力、西小路の運動量は十分に通用する。
バックスに目を移すと、昨年郡司がつとめた12は夏井(大)が13から上がり、その後はタックルの強い平山が掴んだ。
WTBは今回は花田が入らず、夏井(勇)、水野。これは昨年の大東戦と同じ(夏井(勇)はトライを取っている)。
FBは古里が選ばれた。
リザーブでは、やはり春はケガで出場できなかった石井(バイスキャプテン)の復帰が心強い。また今季これまでAチームでは出場機会のなかった片岡が入っているのが注目される。もともと能力が高い選手で、なぜ使われないのか不思議だったが、ここにきて満を持して登場。番号的にはハーフのリザーブだが、SO、FBもできる。松尾もSO、CTBができるだけに、試合展開によっていろいろな組み合わせが考えられ、なかなか練られたメンバー選考といえる。
大東は今季から監督が交代。昨年までチームを支えた主力が卒業し、春季大会もカテゴリーAで1分4敗と振るわなかった。伝統的にムラっけのあるチームと開幕戦で当たるのはありがたい。おそらく例年通りにシーズン後半にピークを持っていく調整をしているはずで、一方、村田監督は開幕戦に照準を合わせてチームを仕上げいることは間違いない。
ポイントは前半15分ぐらいまでに大きく失点せず、持ちこたえること。不用意な反則をして自陣のゴール近くに迫られるとラインアウトからモールを形成されてしまうので、規律をしっかり守ってノーペナルティを目指す。
フォワードはほぼ互角に戦えると思われる。セットプレーが安定すれば、多彩なサインプレー駆使してトライを取る。
うまくゲームプランがハマれば勝つチャンスは十分にある。
今シーズンのリーグ戦は、ワールドカップの期間中は中断となる。したがってこの間にさらなる底上げをすることは可能だろう。前半は大東、東海、法政の順であたる。いずれも手強い相手だが2勝して後半戦を迎えたい。
日大は開幕戦のメンバーで留学生を5人登録、昨年からさらに戦力の上積みが予想される。昨年専大に負けた法政や中央にしてもも目の色を変えてくることは間違いない。
どの試合も痺れる戦いになるが、それが経験できるのも1部にいるからこそ。
歴史的なワールドカップ日本開催の年に、ジャパンとともに専大もまた新たな歴史を作りたい。
関東大学リーグ戦 1部 第1節
専修大学 対 大東文化大学
9月1日(日) 10:45KO 菅平サニアパーク
※この試合はJSPORTS1で生中継されます。