編みたいと思えど編みたいものなく毛糸だまばかり増える病
編みたい。毛糸と道具と教本はたんとある。
ならば編めばいいのだが、“編みたいもの”がない。
世の編み物好きの皆さんは、どうやって編むものを決めているのだろうか。
私は不器用だ。
目を揃えてメリヤス編みを編むのに都合2年はかかった。
そんな調子なので、編むものを“冒険”しない。
「初心者でもできる!」と書かれた編み図から選ぶ。
すると大抵首まわりの巻物、ニット帽を編むことになる。
首も頭も1つずつしかないのに、5組は編んだ。
在宅ワークにかこつけて、引きこもり生活をエンジョイしている人間がいつ使うというのか。
「“編めそうなもの”ではなく、“欲しいと思うもの”に挑戦すればいいじゃないか」とはごもっともだ。
例えば良質な毛糸を使って編んだ今どきなシルエットのセーターや、凝った模様入りの靴下は私でも欲しいと思う。
既に挑戦したこともある。
まず、教本で指定されている糸と同じものを使いたくないという面倒くさい性格のせいでつまずく。
指定糸1gあたりの長さを計算して、手持ちの中から近しい毛糸を選ぶ。
が、ちょうどいいものがない。そしてまた毛糸が増える。
それからとてもとても面倒なゲージをとる。
編み図と解説を交互に睨んで、編み進める。初日は大体うまくいく。
1日で編み終わることはないので、当然日を跨ぐ。するとその時々で手加減が変わる。
半分程度編み進んだ頃、目数が合っていないことに気付く。しかし何がおかしいのかわからない。
初心者にとって真の障壁は“技法”ではない。“リカバリー”の方法だ。
力技で押し切って完成した作品は、サイズが微妙で、ぼろっちい。
それでも愛着は湧いているので、なんとか着用して外出する。
「え、すごい!これ自分で作ったの?」
そう言う人は、きっと褒めているつもりだろう。
ええ、既製品には見えないですよね。
考えたら負けである。
それでも“編みたい”気持ちに変わりがないことに、我ながら驚く。
できることなら実用的なものが編みたい。
振り出しに戻って、何を編むべきか考える。
そうか、“編むためのもの”を編めばいいのだ!
というわけで、近畿編針株式会社『Seeknitの編み物案内』P48に掲載されている、『リネンのニットバッグ』を編んでみた。
ニットバッグに毛糸を入れて適当な場所に吊るし、網目から毛糸を出して編めば、毛糸玉がコロコロ転がるのを防げる。
便利だ。やっと有意義なものを編めた。
しかし私の作業机には吊るす場所がない。
壁際に設置しているメッシュの衝立にS字フックをかけ、吊るしてみる。
部屋の片隅で壁に向かい、黙々と作業をすることになった。
編み物にはマインドフルネス効果があると言われる。
確かに、これなら集中力爆上がりだ。
ただし、家族と同居している人は気をつけた方がいい。見られると地味に気まずいぞ。
それはさておき、このニットバッグの形、見覚えがある。
あ、日本酒の4号瓶だ。
ジャストではないが、いい感じだ。
もっと網目を細かくすれば、お酒用マイバッグになるかもしれない。
モチーフ編みのカラフルな酒袋があったら、絶対欲しい。
なるほど。こうして“編みたいもの”は生まれるのか。
近畿編針株式会社の『Seeknitの編み物案内』は、かぎ針編み、棒針編み、アフガン編みをこれから始めたいという人や、私のような“永遠の初心者”が読むべき本である。
編み物の道具や仕組み、毛糸や作品の扱い方まで体系的に網羅されている。
初心者でも“本当に”編めるシンプルな編み図が揃っていて、応用が効くものばかりだ。
本書に掲載されている作品を全て編んで理解できれば、格段にスキルアップできると思う。
近畿編針株式会社『Seeknitの編み物案内』の詳細は、こちらで確認できます!↓
私が通う編み物教室でも、「編みたいものがわからないから決めてほしい」と講師に依頼する生徒は多いと聞いた。
“編みたい”から“編む”のだから、意味や実用性など考えない方がいいのかもしれない。
とはいえ、目的もなく編み進められるほど、“編み物道”はやさしくない。
ここでは、何を編みたいのかわからない人に、編むきっかけや目標を提案できるような、エッセイを書いていければと思う。