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冬虫夏草をやめた冬虫夏草-Symbiont Replacement-
冬虫夏草をいうものをご存知でしょうか?
一般的に冬虫夏草は、昆虫などに寄生する菌で、地上または地中で宿主を殺してキノコ(子実体)を形成するものを指します。
冬虫夏草というのは、字の通り地中など(冬)で寄生し、羽化し地上に出たとき(夏)に宿主を殺して子実体を形成する種類の菌になります。
狭義では、中国の高山帯に生息するコウモリガ類を宿主として発生するシネンシストウチュウカソウ(Ophiocordyceps sinensis)の子実体を冬虫夏草と言い、漢方薬として利用されてきました。
冬虫夏草は、主にバッカクキン科(Clavicipitaceae)のCordyceps属とオフィオコルジケプス科(Ophiocordycipitaceae)のOphiocordyceps属が多く、Cordyceps属はガの蛹や幼虫、セミに寄生し、Ophiocordyceps属は昆虫の他に線虫や節足動物に寄生するものもおり生物的防除にも利用されます。
この冬虫夏草、宿主を殺すのではなく共に生きる方向にしたものがいるようです。
今日は、不思議な冬虫夏草の世界の話をします。
セミやヨコバイなどの半翅目昆虫は、いわゆる吸汁性昆虫であり植物から栄養を吸い取って生きています。しかし、生きていくすべての栄養を摂取することが出来るわけでないようで、そこで、細胞内共生細菌(Sulcia & Hodgkinia)と共生し、必須アミノ酸を供給しているとされています。
セミも吸汁性昆虫で、地中から這い出て成虫となり、交尾をして卵が産み落とされ、孵化幼虫は地中に移動して数年間過ごします。セミの体には菌細胞塊という器官が存在し、そこに細胞内共生細菌が住むことで助けを借りながら生きることができます。
しかし、セミの進化の過程で共生する存在が入れ替わり(共生体置換, Symbiont Replacement)、そのポストに細菌ではなく真菌が入り込んだようで、その菌がどうやら本来宿主を殺すはずの冬虫夏草(Ophiocordyceps sp.)だったようです。
実際、冬虫夏草は子実体の形成のタイミングまで昆虫の体内に生息し続ける必要があることから、昆虫の免疫を回避し体内で生存する能力を持っているので、ある段階で逆に共生することで種の遺伝子をより残しやすい方向にシフトしたと考えられています。
菌の寄生から共生への進化は他の種でも見られていることですが、その進化の流れは遺伝子の水平伝播により促進されることが考えられています。その過程で、菌類は窒素固定や毒素の生産など、宿主への利益になるような形質を遺伝子にコードするようになるようです。
共生する菌の中で、ヨコバイの共生細菌であるRickettsiaは細胞質の中だけでなく、ヨコバイの精子の細胞核中でも増殖でき、子孫への伝播を可能にしているとされています。このように、菌類は想像以上に多種多様な進化の末に高度な生存戦略をとっているようです。
共生というのは、双方利益がある相利共生(Mutualism)と、片方が利益を受けるがもう片方は特に利害のない片利共生(Commensalism)があります。そういった自然界の相互関係(interrelationship)についての研究は特に近年活発に行われており、驚きの生態が明らかになってきています。
世界は想像以上に複雑で日々進化を続けています。
皆さんも、実はいろんな人や生き物と一緒に生きていることを考えながら、自然を愛でるのも良いかも知れませんね。
ご清聴ありがとうございました。
【Reference】
冬虫夏草生態図鑑
ISBN: 978-4-416-71403-4
Recurrent symbiont recruitment from fungal parasites in cicadas
https://doi.org/10.1073/pnas.1803245115
Intrasperm vertical symbiont transmission
https://doi.org/10.1073/pnas.1402476111
Microbial evolution and transitions along the parasite–mutualist continuum
https://doi.org/10.1038/s41579-021-00550-7