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日産・ホンダの「破談」について
前に婚活に関する記事を書いたことがあるが、日産・ホンダの経営統合問題とその破談の顛末を見ていると、昨今の未婚男女による婚活における良くない事例に共通するものがあることに気がついた。
結婚というものは、双方の釣り合いが取れるような組み合わせでしか成立しない。この場合の「釣り合い」とは、客観的な指標やデータに基づくものでなければならない。自分自身の偏差値が低いのに、いくら難関大学を志望したところで結果は目に見えている。分不相応な願望だけでは、どうにもならない。
今回のケースにおける日産は、ハイスペック男性との結婚を願望する婚活女性のようなものである。たとえるならば、以下のような感じであろう。
もはや若くもないし、容貌も見る影もなく衰えているにもかかわらず、若い頃から美人だと言われて来たので、今でも自己評価だけはやたらに高い。若い頃に身についた贅沢な生活習慣を改めることができず、金遣いが荒いせいで、家計はいつも赤字、借金まみれである。ハイスペックで稼ぎの良い男性と結婚すれば、今の生活水準を維持できると考えて、婚活に励んでいるのだが、相手に求める要求水準が高すぎて、なかなかお見合い相手が見つからない。かと言って、条件を下げるつもりはない。
こういう女性は、何年、婚活しようと、たぶん結婚できないだろう。日産の置かれている状況というのは、こういう「勘違い」婚活女性と酷似している。自分の置かれている状況が理解できていないのだ。
日産は、東芝とよく似ている。何回も経営危機があり、その都度、外部からテコ入れをして、一時的には盛り返すのだが、少し経てば、またダメになる。老舗企業だったプライドが邪魔をして、身を切るような経営再建に取り組めないのだ。その点、日立は偉かった。要するに、不退転の覚悟を決めて、腹を括れる経営者がいるかどうかの違いである。
主力のアメリカ市場で販売不振が続き、テコ入れのための販売費用が増えたことや、EVシフトが進む中国市場でも販売が落ち込んだことなどを主たる要因として、去年4月から9月までのグループ全体の決算は、売上が前年同期比1.3%減少の5兆9,842億円となり、営業利益が90.2%減少の329億円という惨状である。経営の立て直しに向けて、再来年度までに世界で生産能力を20%削減、従業員9,000人をリストラするとのことである。
尻に火がついた状態であり、下手すると経営破綻なんてことも現実味を帯びている。もはや贅沢なんて言っていられる立場ではないのに、子会社化はイヤだ、対等な立場での経営統合じゃないとイヤだとワガママを言う。
そんな状況であるにもかかわらず、日産の役員報酬は、競合他社に比しても高額なのだそうである。
<経営危機にあるはずの日産の役員報酬総額(約29.3億円/24年3月期)が、ホンダのそれ(約17.9億円)の約1.6倍にも上る点も議論を呼んでいた。ちなみに有価証券報告書によると日産の内田誠社長の23年度の総報酬額は6億5700万円。>
<トヨタ自動車ですら同年度の役員報酬総額は約36.9億円で、そのうち16億円は豊田章男会長の分が占めるため、他の役員の報酬はそれほど高くありません。>
<日産は社外取締役の報酬も高額なことで知られており、社外取締役を含めた役員のなかには、ホンダとの経営統合によって高額な報酬を失うことを懸念して統合に後ろ向きな役員も少なくないといわれています。日産の役員報酬が高額な理由は、カルロス・ゴーン時代に『役員報酬を国際標準に合わせる』との名目で引き上げたためですが、内田社長としては高額報酬を約束することで役員からの抵抗を抑え、自由に経営しやすくなるという面もあるでしょう。>
ホンダの子会社になって、経営再建のために大ナタを振るわれることになったら、当然のことながら、役員報酬なんて真っ先に削られる。会社が危殆に瀕しているのに、役員だけが高禄を食んでいるなんて、株主が納得するはずもないではないか。放置していたら、今度はホンダが自分の株主から突き上げられる。
乗っている船が沈みかけていても、自分たちの恵まれた処遇を失いたくないから、本来は執行部に対して厳しく指導すべき社外取締役まで一致団結して、ホンダの子会社になるのを抵抗しているのだとすれば、取締役としての職務忠実義務に反しているとさえ言わざるを得ない。
自分たちは名門企業だし、大きすぎて潰せない。ヤバくなっても、きっと政府も含めて、誰かが救済してくれるだろう。そんなふうに思っているのだとすれば、もう救いがたいくらいに愚かな経営陣だと思うし、一回、さっさと破綻でもさせて、どこか他社にでも買収されて、経営陣を総とっかえすべきであろう。