「マイナ保険証」について(続編)
マイナンバーカードと健康保険証が一体化することに関しては、前にも何度か記事に書いた。
いろいろと反対意見も出ているようだが、僕は基本的に賛成だし、日本の医療の合理化や効率化に資することだと思っている。
本来は個々人に帰属するべき「PHR(personal health record)」が十分に活用できるようになること、またそれによって、重複投薬や重複検査が排除され保健医療支出の削減も可能となることも期待できる。
現行の健康保険証は、本人確認資料としても用いられているが、本人確認資料としてはかなり問題がある。マイナンバーカードと一体化することで、なりすましによる不正利用が撲滅されるであろうし、「PHR」が、個々の医療機関のカルテの中にバラバラに保管され、名寄せもされず、活用できない状況から脱却して、自分自身の手元に取り戻せることの意義は大きい。「PHR」は本来は自分自身のものだからである。
「医療記録」はプライバシーそのものである。そんなデリケートな記録をマイナンバーカードに任せることに抵抗あるという意見があるが、それはおかしい。「マイナンバーカード」自体は、いわば本人確認のための「入口」に過ぎない。カード内に記録されている情報は、氏名や住所、生年月日等の本人確認に必要なデータのみであり、それ以外の個人情報についてはカード内のチップに保存されているわけではない。
また「マイナンバーカード」による「eKYC(electronic Know Your Customer)」は「公的個人認証サービス(JPKI)」と呼ばれており、国際基準に照らしても本人確認手続きとしては最高レベルであるという。マイナンバーカードでダメならば、他の代替手段すべてダメということになる。
一方、「医療記録」のような個別のいろいろな個人情報は、「マイナンバーカード」に保管されているわけではない。したがって、「入口」での本人確認と、個別の個人情報を誰にどこまでアクセス権限を許容するかについては、別の議論が必要となる。
医療のデジタル化で日本に先行するドイツでは、「資格確認」と「医療記録」へのアクセスを明確に切り離した制度設計を進めており、どちらもICチップ搭載の電子健康カードを使うが、「資格確認」はカードを窓口で読み取るだけ、一方で「医療記録」にアクセスする際は暗証番号の入力など厳格な認証を求め、患者自身がデータごとに誰にアクセスを許可するか設定できる仕組みになっているという。日本でも同様に、そういうデリケートな部分に関するきめ細かい配慮とそれに基づく丁寧な制度設計は不可欠であろう。
「PHR」を自分の手元に取り戻し、いろいろな形で活用することができれば、医療の合理化が一気にス進む可能性はある。
日本は他の先進国に比べて医師が少ない。診療科や地域によって医師が偏在する。地方病院やクリニックなどの主治医と、専門医との連携を図ることができれば、地域間の医療格差の解消が期待できる。
地方在住で、何年か前に大病を患って、大都市圏の専門医の手術を受けた人が、何ヶ月かに1回、術後の経過を診てもらうために、わざわざ飛行機に乗って泊りがけで通院しなければならないといった話を耳にしたことがある。幾つかの検査を受けた後の主治医の診察自体は毎回数分程度とのことである。それであれば、地元の医師と主治医が連携して、検査自体は地元医師にやってもらい、データを主治医がチェックするようになれば、わざわざ飛行機に乗ることも、おカネと時間を費やす必要もなくなる。専門医は専門医で本来やるべき仕事に集中することができるようになる。
医療DXを推進することで、関係者の全員がハッピーになるはずのことであっても、日本ではなかなか簡単には進まない。既得権益を守りたい人たちは、何か既存のやり方を変えようとすると、とりあえず脊髄反射的に反対するものらしい。