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「町医者パラダイス」について

「文藝春秋」創刊100周年二月特大号に、「憂国の文系官僚」丸花耕吉さんなる御仁が「町医者パラダイスは亡国の道」という記事を書いているのを読んだ。

記事の内容の詳細は省くが、要約するならば、進学校の成績優秀者がこぞって医学部をめざす昨今の風潮は、わが国の将来にとって決して良くないといった内容である。

受験勉強において偏差値の高い人間が研究者としても本当に優秀かどうかはよくわからないが、要領が良くて、情報処理能力が高いことはたしかである。

そうした人材の多くが、医学部に進んで医者になり、さらにその大部分があまりリスクがなくて報酬の良い「町医者」的な分野に進むというのでは、社会全体としてみれば、かなりバランスが悪いし、せっかくの人材がもったいないし、他の分野は果たして大丈夫かという話になる。

背景としては、医師会、厚労省、族議員といった開業医の既得権益を守る立場の人たちのパワーによって、診療報酬という「公定価格」が保障されていることにある。はっきり言えば、医者の世界では、腕が良くても悪くても、同じことをやれば同じ値段である。大病院の勤務医と違って、労働環境は過酷ではなく、面倒な診療は紹介状を書いて大病院にパスできる。商売としてはメリットばかりである。

こうした状況を改善しようとすれば、「公定価格」を削減すれば良いし、国民の医療費を削減するためにも是非ともやった方が良いのだが、開業医の既得権益を守る立場の人たちが断じて容認しないであろう。

優秀な若者が医者になること自体に何も問題はないが、ワクチンや新薬を開発するような最先端の分野に進むわけではなく、大部分の人材が、「町医者」的な世界に偏っていることが問題であるという。実際のところ、ワクチンにしても新薬の開発にしても、日本は世界からかなり遅れを取ってしまっている。それはコロナ渦で露呈した事実である。

医学以外の科学技術分野、量子、AI、バイオ、宇宙開発等の分野においても同様である。予算も米中に比べたら、ケタが1つか2つ足らない。カネもなければ、人材も不足しているということになると、勝負する前に敗けてしまっている。

昔々、高度成長期よりも前だと、理系の最優秀の学生は、東大とか京大の理学部物理学科に進むものだったという話を聞いたことがある。医学部ももちろん難関だったのだろうが、今ほど極端に偏ってはいなかったはずである。

企業戦略というのは、詰まるところ、経営資源(ヒト、モノ、カネ)の配分をどうするかである。「やること」の優先順位を決めて、各分野にどう経営資源を配分するかということになる。

国家戦略も同じである。政治と行政というのは、国民から集めた税金をどのように再配分したら、いちばん国益にかなうか考えるのが仕事であろう。

現状だと、カネの配分、ヒトの配分も不具合を起こしているということになる。既得権益を一旦リセットして、ガラガラポンができないものかと思う。

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