見出し画像

「黒字廃業」と「後継者難」について

日経の記事にもあるとおり、<国内の中小企業は約358万社に上り、企業全体の99.7%を占める。高度経済成長期などに創業したオーナーが高齢化し、親族や従業員に後継者がいない会社が増えている。中小企業庁の試算によると、25年までに60万社が黒字廃業に追い込まれる恐れがある。>という。

これに関する反応は、たぶん2つに分かれる。

1つは、日本には中小企業が多すぎる(全企業の99.7%が、中小企業)。だから生産性が低いのだ。したがって、もっと中小企業を整理した方が良いのだという考え方である。

もう1つは、経営者の高齢化であと2,3年も経てば、60万社も黒字廃業してしまう。これらの企業で働く人たちの雇用が守られず、彼らの持つ技術やノウハウが廃れるのは日本経済の損失であるから、これを何とかするべきだろうという考え方であろう。

どちらかが正しいとかいう話ではなくて、それぞれどちらの言い分も正しいということではないだろうか。

中小企業は生産性が低いという主張は、検証が必要である。そもそも生産性という言葉自体、曖昧な使われ方をされていることが少なくない。

労働生産性とは、付加価値を労働者数で割ったものであるが、雇用者数を増やすと、そのぶん分母が大きくなり労働生産性は下がってしまう。逆に雇用者数を減らせば、付加価値は同じでも生産性は上がる。パーセンテージよりも、付加価値の絶対額を見た方がわかりやすい。

企業数では、大企業は0.3%、中小企業が99.7%。付加価値額では、大企業は120.5兆円、中小企業は135.1兆円となる(「2020年版中小企業白書」中小企業庁)。企業数では圧倒的に中小企業が多いのだが、付加価値額ではせいぜい半分ということになる。従業者数では、大企業は31.2%、中小企業は68.8%である。大企業と中小企業を比較した場合、付加価値額だと、1:1、従業員数だと、3:7となるので、たしかに中小企業の方が分が悪い。

だが、日本経済において、付加価値額の半分を占めているのもまた事実であり、従業員数の7割の受け皿ともなっている。なくなっても構わないとは思わないし、黒字廃業をこのまま放置しておいて良いとも思わない。

経営資源に限界がある中小企業がたくさんあるよりも、デービッド・アトキンソンが言うように、統廃合を経て、経営規模が大きくなった方が、技術革新や設備投資にも耐えられるようになるというのもまた事実であろう。

ごくニッチな分野でキラリと光る技術を持っていたとしても、それだけでは大手企業の下請け仕事しかできないし、付加価値の部分で大企業に搾取される対象でしかない。単なる「点」ではなくて、せめて「面」をカバーできるようにならないと、大企業に対して自己主張できるような存在にはならない。そのためには、ある程度の合従連衡が必要となるという考え方は正しい。

そもそも、日本にはアップルもGoogleもAmazonもない。このままでは日本経済全体が下請け工場みたいになってしまって、海外企業に「いいところ取り」されるだけの存在になってしまうおそれがある。

後継者問題もあってか、中小企業のM&Aは実は隠れたブームというかバブルが今後起きる可能性はある。

日経新聞の記事に紹介されている「SoFun」(ソーファン、滋賀県近江八幡市)だけでなく、前からある「トランビ」(東京都港区)みたいな企業もある。発想は、「メルカリ」とか「ヤフオク」と同じようなもので、ネットを利用した企業と買い手とのマッチングアプリである。ネットを検索すると、M&Aの仲介企業は他にもたくさんある。

銀行時代、取引先のM&A案件をいくつか手がけたことがあるが、M&Aのマーケットは、買い手はたくさんあるのだが、売り案件が少ないというのが悩みであった。それが、経営者の高齢化によって売り案件が(潜在的な案件も含めて)世の中に増えてきているというのは、日本におけるM&Aマーケットが拡大、整備される絶好の機会とポジティブに考えることができる。

不動産仲介に関しては宅建業法もあって、制度的にもきちんと整備されているが、実はM&Aマーケットは法整備も遅れている。仲介業者もいい加減なところが少なくない。きちんとしたデューデリをやれる業者、法令面、財務面等も含めていろいろなリスクを総合的に評価できる業者がどれほどいることか。そういう意味では、まだまだ素人には手を出しづらい怖さがある。

一方、若い起業家が、後継者がいない企業を買い取って、経営者として新たなステージにチャレンジするといった話も耳にする。あるいは、サラリーマンとしての経験を活かして、経営者としてのセカンドキャリアに踏み出すというような事例もあると聞く。

企業の売買が活性化すれば、ゾンビ企業の新陳代謝も行われるようになる。実際のところ、経営者が変われば、旧態依然としたロートル企業が新しい命を得て、息を吹き返す可能性は十分にある。

もちろん、うまくいく事例ばかりではない。でも、ダメならばダメで、潰れたら良いのである。もともと経営者が高齢化して後継者もおらず、25年までに60万社が黒字廃業に追い込まれる予定だったのである。所詮はダメ元なのである。1,000のうち1つでも化ける会社があれば、儲けものだと割り切れば良いと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?