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「墓じまい」について

人間に魂があるのかどうか、死後の世界、来世とか前世とかが本当に存在するのか否かについては、僕などには窺い知るべくもないことである。

それはさておき、人間のカラダ自体は単なる物体であり、死んでしまえば、用はない。人類が地上に出現してから、何人が生まれて、何人が死んだのかについては定かではないが、一説によれば、累計1,080億人なのだそうである。

いずれにせよ、彼ら全員に墓を用意していたら、地球上はお墓だらけになってしまう。自然の摂理、地球上の生態系・エコシステムを考えても、死ねば土に還り、他の生き物の糧になるのがスジというものであろう。

先日、僕の母親が亡くなった。

ウチの家のお墓は、かなり遠隔地にある。あまり気安く通えない距離である。しかも、僕の子どもは娘ばかりである。普通に考えると、他の家のお墓に入ることになるのだろう。そうなると、我が家のお墓は、近い将来、不要になる。

じゃあ、どうするかという話である。

1つは、このまま何もせずに放置するということになる。母親のお骨は、父親と同様に従来からあるお墓に納骨する。父親も近隣のお寺に分骨したので、母親も同様の対応を取る。僕や家内も同様とする。娘たちが元気なうちは、気が向けば何年かに1回くらいは墓掃除に行ってくれるかもしれない。いずれは放置されて、荒れ放題になるだろうが、その頃のことまで心配しても仕方がない。ただし、これは少々無責任である。

2つめは、僕や家内が元気なうちに、「墓じまい」をすることである。ご先祖さまのお骨は、近隣のお寺に依頼して永代供養してもらう。僕や家内に関しても同様である。はっきり言って、僕自身は死後のことはどうでもよい。お墓も戒名も無用だと思っている。

現実的な選択肢としては、2つめの方になるのだろう。これもやるならば、できるだけ早く着手した方が良い。僕や家内が年を取って、体力・気力が衰えてしまったら、たぶんこういうことも後回しになるのは確実だからである。やるならば、あと10年以内に完了させる必要がある。それがタイムリミットであろう。

メタバース空間に墓所を置き、AI技術を使って故人を仮想的に再現するといったことは、昨今の技術を駆使すれば、さほど非現実的なことではないのは理解できるが、そうしたことは死んだ当人には関係ないことである。

古代エジプトなどでミイラが制作された背景には、死者が蘇ることに対する願望があるのだろうが、今ならば、ミイラなど作らなくとも、DNAデータを保存しておけば済むであろう。データだけであれば、たとえ人類生誕以来の累計1,080億人分であっても保存可能かもしれない。

ただし、DNAデータを使ってクローン人間を自由に作れる時代が仮に到来したとしても、死んだ当人が蘇るわけではない。あくまで同じ遺伝情報を持った「何ものか」にすぎない。しかしそれでも、いろいろな研究に活用することは可能であろうし、全世界で共有可能なゲノムのデータベースを構築するのは意味があるだろう。お墓などよりも、我々がこの世界に生きていた痕跡を残すことができる。

ついでに言えば、絶滅危惧種の動植物の遺伝子情報も同様に保存しておくと良いのかもしれない。リアル「ジュラシックパーク」、あるいは「ノアの箱舟」みたいなものである。


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