M&Aと詐欺師について
先日、放映された「ガイアの夜明け」(関西だと、「テレビ大阪」系)で、「企業買収に潜む ”詐欺師”」というタイトルで、M&A取引を巡る問題事案について紹介されているのを見た。
紹介されていた事案は、以下のような話である。
・「センシュー科学」という分析機器メーカーが今年倒産した。創業者である山口千秋なる人物は、認知症になった妻の介護に専念するため、会社を譲渡することを考えていたが、コロナ渦の影響もあって、近年は業績不振であり、3億円の負債も抱えていたこともあって、売却先がなかなか見つからないでいた。
・それでも、M&A仲介業者「ペアキャピタル」の紹介で、「ルシアンホールディングス」という買収先が見つかり、無事に売却手続きも完了したかと思いきや、売却の条件であった経営者保証の解除手続きが行なわれず、当座の運転資金として会社の預金口座にあった60百万円ほどの現預金が、買収先である「ルシアン」側に流出して、「センシュー科学」は経営破綻してしまった。
・経営者保証が解除されていないので、当然ながら、山口前社長の現預金や不動産は差し押さえられることとなり、長年住んできた家も手放さざるを得ない状況。「ルシアンは当然許せないが、こんないい加減な会社を紹介した仲介会社も許せない」と仲介業者に対する怒りが収まらない。
番組内でも語られていたことだが、M&A業界というのは、法規制がほとんど未整備というか野放しの状況にある。はっきり言って、誰かの意図するところによって、わざと放置しているのではないかと思うくらいである。
不動産取引であれば、宅建業法がある。投資運用商品取引であれば、金商法がある。それぞれ厳格な法規制があって、いい加減なことができるような仕組みにはなっていない。
遅ればせながら、所管官庁である経産省や業界団体等により、今後、悪質業者の実名公表とか、規制の整備等が進むことになりそうであるが、それまでは現状の無法状態が続くことになりそうである。
M&A仲介を生業とする企業は、実は少なくはない。この番組に登場した「ペアキャピタル」もその中に含まれる。僕は知らなかったのだが、この会社は、「東京プロマーケット」に上場するれっきとした会社である(ただし、今年9月には、早くも上場廃止となっている)。
だが、番組内でインタビューに応じていた同社社長の話しぶりなどを聞いている限りでは、少々、頼りないし、こうしたトラブル事案が発生したわりには、まるで他人事という感じであった。
不動産取引、投資運用商品取引においては、顧客保護の観点から、仲介業者にも厳しい責任が求められる。M&A業界においても、同程度の善管注意義務が求められたとしても、何ら違和感はないし、そうでなければ、今回と同じような事案は今後も起きるに違いない。
高齢化社会を迎えて、後継者難を理由とするような、会社の「売り」案件は、今後、益々増えてくるのは間違いない。スタートアップ企業の「出口」としても、日本ではIPOのウェイトが大きいが、米国ではむしろM&Aの方が多いという。ゼロイチで新たな事業をスタートさせる能力と、事業を大きく太らせて成長させる能力とは、本来は別物なのである。
そういう意味でも、M&A業界の法整備については、早急にやってもらいたい。少なくとも、不動産であったり、投資運用商品と同程度のルールがないことには、危なっかしくて見ていられない。