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タイミングの重要性について

今はもう昔、バブル期頃には、女性の結婚適齢期をクリスマスケーキになぞらえた謎の「理論」が存在した。

いわく、23歳までは少し早い、24歳の価値が最も高くて、25歳は半額、26歳以降は不要といった感じである。

内閣府の「少子化社会対策白書」(22年版)によれば、日本人の平均初婚年齢は、20年データで、夫が31.0歳、妻が29.4歳とあり、晩婚化が進む昨今において、このような話はもはや現実と乖離しているし、女性からボコボコにされるのは必至であるが、要するに、物事には「旬」とか「タイミング」がすごく重要であるということのたとえ話として、クリスマスケーキを例に出したことについては理解できる。

クリスマスケーキは、クリスマスという年に1回のイベントのタイミングを外してしまっては、ほぼ価値はない。高島屋は謝罪して返金に応じるとのことであるが、返金したところで、お客さんは納得しないだろう。クリスマスというイベントに注文したとおりのケーキが手許に届くことに対してお客さんはおカネを払っているのである。逆に高島屋としては、そうしたタイミングまで含めて請け負って対価を得ているということになる。そうしたお客さんの期待、高島屋というブランドに対する信用を毀損してしまったわけであるから、そうしたことまで含めた代償たるや、ケーキ代を返金しただけでは済ませられない。僕がお客さんだったら、絶対に納得しないであろう。

クリスマスであれば、年に1回のイベントだし、冠婚葬祭であれば、(場合によっては)一生に1回のイベントである。そういう大事なイベントで、約束したことを履行できなければ、おカネを返して済む話にはならない。

ちょっと適当な例ではないかもしれないが、性交後72時間以内に服用しなければならないアフターピルを、1週間後に届けたところで何か意味があるだろうか。同じことである。

本件には、複数の関係者が存在する。ECサイトを運営する高島屋、ケーキを監修したフランス料理店「レ・サンス」、製造を受託した「ウィンズ・アーク(埼玉県羽生市)」、配送を請け負った「ヤマト運輸」である。

テレビのニュースで流していた「レ・サンス」側のコメントによれば、冷凍状態で送るようになっており、過去も同様に対応してきた、過去にはトラブルはなかったという話である。

一方、「ヤマト運輸」側の公式サイトによれば、デコレーションケーキはそもそも送ることができないのだという。そうなると、過去に遡って、デコレーションケーキではないと偽って配送を依頼していたのか、デコレーションケーキが送れないことを知らずに配送を手配していた可能性がある。

製造を受託した「ウィンズ・アーク」がどのような対応をしていたのかがポイントになりそうであるが、梱包が雑だった、冷凍の工程が十分ではなかった、保管がいい加減だった等の原因が考えられる。

が、いずれにせよ、最終的な責任は高島屋にあるのは当然である。お客さんは、あくまで高島屋のECサイトに注文しているからである。業者に丸投げは許されず、業務フロー全体に対して責任を負っている以上、抜き打ち検査をするなり、商品のクオリティには万全を期すべきであろう。お客さんの顔が見えないECサイトであればこそ、注文を受けた商品が、約束した日時に、約束した状態で、お客さんの手許に届くところまで目を光らせるのは当然である。

最近は百貨店のブランドも徐々に地盤沈下しつつあるとはいえ、それでも「高島屋さんならば大丈夫だろう」と思うお客さんは少なくない。だから百貨店側も、取引先の選定はシビアに行なっている(はずである)。取引先にとっても、「〇〇百貨店に商品を卸している」というのが、一種の「箔」になっていた時期もある。

そういう意味では、高島屋にとっては、今回の事件は「オウンゴール」みたいなものであろう。

徹底的な原因究明とともに、再発防止策を講じるのは当然のことであり、お客さんに対しては、「返金すれば文句ないだろう」という態度では済まさないことである。ブランドに対する信用を失墜させたことについては重く受け止めた方が良い。

僕が高島屋の社長ならば、ちゃんと謝罪会見でも行なった上で、「レ・サンス」と「ウィンズ・アーク」は「出禁」「取引停止」処分とする。そして、被害申し出のあったお客さんに対しては、訪問して謝罪、もちろん返金に応じた上で、来年のクリスマスケーキは無料で自宅までお届けするくらいのことはやるだろうなと思う。

自分たちに非がある場合の、事故・トラブル対応というのは、マイナスからスタートしてゼロまで持っていくプロセスである。自分たちに責任がある以上、損するのは仕方がない。イヤイヤ謝ったり、イヤイヤ返金したところで、却って印象が悪くなるだけである。どうせ損をするのであれば、思い切ったこと、相手が想定しなかったことまでやって、ようやく悪印象を少しは払拭できるというものであろう。


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