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「あまちゃん」について

23年4月から、いよいよ始まったと思ったら、早くも本日、最終回を迎えてしまった。いやいや。半年間、毎朝7時15分からのBSでの再放送が楽しかった。正直な話、7時半からの「らんまん」よりも、「あまちゃん」の方が断然面白かった。

朝ドラ「あまちゃん」のBSプレミアムでの再放送の話である。主役の能年玲奈(のん)の芸名問題とか、ピエール瀧の薬物使用問題といった、いろいろなオトナの事情も絡むので、たぶん再放送はないと思っていた。でも、放送10年目にあたる23年4月からの再放送を敢行したNHKの英断にまずは敬意を表したい。

ドラマの中身については、いろいろな人が考察をしているし、ネットでも閲覧できるので、そちらをご覧いただきたい。僕も、自称「朝ドラ評論家」なので、語りたいネタはいくらでもあるが、たぶん同じようなことを書いている人は、日本中に数多いるはずだし、繰り返しになるから、敢えてここでは書かない。

13年上期に放映されたこのドラマは、東日本大震災について、ほぼ初めてきちんと正面から向き合ったドラマでもあった。東北出身の宮藤官九郎だからこその視点というか、単に被災地や被災者に過剰に同情するでもなく、腫れ物に触るような扱いをするのでもなく、もちろん何もなかったかのようにスルーするでもない、その絶妙な距離感に東北人の矜持を感じさせたものである。

前にも書いたが、アキに、「励まして頂かなくても、自分たちで何とかするし。やってるし。だから、お構いねぐ(お構いなく)」と言わせる場面が印象に残っている。テレビ局の人間から、地元の復興に取り組む彼女らの姿を発信することで、全国のファンから励ましの声が届くと言われたことに対する彼女の回答がこれである。アキの祖母である夏ばっぱも、アキからのメールの返信に、「お構いねぐ」と書いていたものだ。

とはいえ、現地の状況は決して呑気なものではない。花巻さんの自宅は流されて、子供を育ててながらパートに精を出している。組合長・かつ枝さんの家も全壊、亡き息子の写真も流されてしまい、仮設住宅を申し込んでいる。「ブティック今野」も滅茶苦茶になり、弥生さん夫婦は親戚の家に厄介になっている。そんな悲惨な状況でも、皆んな下を向かずに、日々を必死に生き抜いて、復興に取り組んでいるのだ。そんな中、高齢かつ病み上がりの夏ばっぱは、相変わらず海に潜ってはウニを獲っている。彼らの「お構いねぐ」は、「自分たちは、大丈夫だから」というポジティブな意思表明に他ならない。被災者でもない連中に、「がんばれ」なんて言われなくても、彼らは無茶苦茶にがんばっている。彼らの「お構いねぐ」には、そうした思いが込められているのだ。

夏ばっぱの語りも泣かせる。宮藤官九郎は、東北人として自分が言いたかったことを、ぜんぶ夏ばっぱに言わせたのではないだろうか。

夏ばっぱ:「いいが、アキ。海が荒れで、大騒ぎしたのは、今度が初めてじゃねえ。50年前の、チリ地震の時も、大変な騒ぎだった。まさが、生きてるうちに、もう1回怖い目に遭うどは、思わねがった。家が流され、船が流され、多くの命が奪われだのは痛ますい。忘れではなんね。でも…だからって、海は怖えって、決めつけて、潜るのやめて、よそで暮らすべなんて、おら、そんな気にはなんねえ。みんなもそうだ。たとえば、漁協のかつ枝と、組合長な…。一人息子が、19の時に、波にのまれてよ、その、遺影だの、遺品だの、全部流されで…。それでも、ここで笑ってる。笑って暮らしてる、かつ枝と長内さんにさ、な、おめえ。「ここにいたら危ねえよ」だの、「海がら離れて暮らせ」だの、言えるが? おら言えねえよ。おらだって、もし、ここ離れたら、忠兵衛さん、どこにけえってくるんだ? 高原の、ログハウスか? それとも、世田谷のマンションが?」

アキ:「似合わねえな」

夏ばっぱ:「フフッ。だから、ここで待ってるしかねえんだ。忠兵衛さんと、引き合わせてくれた海が、おらたち家族の、おまんま食わせてくれた海が、1回や2回へそ曲げたぐらいで、よそで暮らすべなんて。おら、はなっから、そんな気持ちで、生きてねえど」

アキ:「うん」

夏ばっぱ:「おめえもだぞ、アキ。東京だろうが北三陸だろうが一緒。どごで暮らすにも、覚悟が無くちゃダメだ」

どこに住んでいたって、危険は一杯ある。東京や大阪だって、明日、大地震が起きるかもしれない。道路を歩いていて、トラックに轢かれるかもしれない。鉄骨が頭の上から落ちてくるかもしれない。人間なんぞ、所詮は明日をも知れぬ、はかない人生を生きているのだ。

何か悲惨な出来事があったからと、無関係な他人に同情されたり、自粛されたり、能天気にがんばれと言われても、何も解決しない。それぞれが、自分の持ち場で自分ができることをやるしかない。働ける人間は、自分の持ち場で経済を回す。そうやって世の中は回っているのだ。

春子のセリフに、「東北の人間が、働けと言っている」というのもあった。震災後、仕事が手につかない鈴鹿ひろ美に対して春子が喝を入れる場面であった。何もせずに、感傷に浸ったり、自粛するだけでは、単なる自己満足、ナルシシズムなのだ。

僕は、47都道府県のほぼすべてを訪れたことのがあるのだが、東日本大震災以降の東北地方はいまだ訪れる機会を持てずにいる。

このドラマを見たこともあって、そろそろ福島、宮城、岩手と太平洋側の3県を回ってみたくなった。その際には、当然、「三陸鉄道リアス線」に乗らなければならないのは言うまでもない。


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