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「新卒カード」について

「新卒カード」という言葉がある。日本の就職市場において新卒が有利な立場にあることを示す言葉である。日本の伝統的な大企業は、昔も今も「新卒一括採用方式」という採用方法を選択しているからである。

日本企業の人事制度、終身雇用や年功序列等がまだまだ根強いこともあり、新卒採用を重視しているところが多い。もちろん中途入社、第二新卒採用、キャリア採用、プロフェッショナル採用といった新卒以外のルートもだんだんと増えてきているものの、あくまで本流は新卒採用組という考え方をしているところは、大企業とか官庁とかを中心にまだまだ幅を利かせている。

一方、今の若い人たちは大学を卒業して就職したところで定年まで勤め上げようと思っていない人も少なくない。社会で通用するようなスキルを早く身につけたいと考えて、そのためにハードであっても早くから大きな裁量を任せられるような仕事に就きたいとような人たちは、コンサルとか外資系とか、リクルートとか DeNAのような企業に就職するのだろう。

同じように新卒でいきなりスタートアップ企業に就職するというような若者もいる。たしかに会社の規模が小さいところは慢性的に人手不足だし、やる気さえあればどんどんといろいろな仕事を任されることもあるだろう。

それでも一生で1回しか使えないのであれば、「新卒カード」は上手に使った方が良いと思う。

上手に使うとはどういうことか。

要するに、いまだに「新卒採用組こそが本流だ」といった古い考え方をしているような、いわば頭の硬い伝統的な大企業とか官庁とか、つまり「新卒カード」を切らないことにはなかなか入社するのが難しそうなところに入るために使うのが最も有効な使い途ではないかと思うのだ。

で、「新卒カード」を使わなければ入社できないような頭の硬い企業に入社することの意味があるのかという話であるが、「ある」と断言できる。

日本のような保守的な社会の場合、所属する組織の名前とか肩書で「値踏み」されるようなことは日常において頻繁に起こり得る。米国であれば、スタートアップ企業だったマイクロソフトがMS-DOSを武器に天下のIBMとの取引に成功するといった夢物語も成立するかもしれないが、これが日本の大企業であれば、実績のない零細企業と新規取引するという話を仮に社内稟議で申請したとしても承認されるのはおそらく難しいであろう。

逆に言うと、世間の誰もが知っているような名門大企業に所属していると、それだけで何やら信用されるし、実力や中身はたいしたことなくても優秀だと勘違いされたりする。

そこから飛び出して転職しても同様である。「元〇〇」という肩書は一生ついて回る。ビジネスパーソンとしての「本籍地」みたいなものである。実際のところ、僕だって、今はスタートアップ企業に在籍しているが、「元〇〇銀行(メガバンク)だったんです」と言うと、明らかに相手の対応が変わるといった経験は頻繁にある。

たぶん、日本のビジネス社会で生きている限り、出身大学と新卒で入った会社の名前はずっとつきまとうことになる。

それが良いとか悪いとかいう話ではない。正直なところ、くだらないと思う。でも、そういう社会だと思えば、利用できるものは利用すればよい。

したがって、「新卒カード」は有効に使うに越したことはない。たぶん、その後のキャリアで転職するにせよ、起業するにせよ、名刺代わりに使える手持ちの武器が1つ増える。

外資やコンサルは優秀ならば中途でも入れる。仕事ができないと即クビになるだけである。リクルートとか DeNAのような企業も、わりと出入りは自由であると聞いたことがある。1回スピンアウトしてから、また出戻る人もいるらしい。つまり「新卒カード」はあまり必要ない。中小企業とかスタートアップ企業も同様である。

「新卒カード」を切れるのは1回限りである。そのワンチャンスを「新卒カード」を使わないと入社できないところで使って、その後のキャリアパスにおいてずっと有効に使えそうな「無期限パス」と交換するのだと割り切ればよいのだ。


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