見出し画像

「エネチェンジ」について

少々旧聞に属するが、「エネチェンジ」という会社の「外部調査委員会」による報告書を読む機会があった。

「エネチェンジ」は、SPCを用いた決算操作が問題となり、これが不正か否かということで、会計監査人である「あずさ監査法人」と対立、結果的には、創業者で代取であった城口洋平なる人物が辞任し、あずさ監査法人も会計監査人を辞任するに至った。

不正(つまり故意・悪意に基づいて、世間を欺くために会計操作を行なったのか)かどうかは、はっきりとはしていない。先ほどの「外部調査委員会」では、不正とは断じていない。というか、この委員会の報告書を見ると、「答えありき」で、事態の収拾を図ることが目的なのかなあと勘繰りたくなるような書きぶりである。

でも、会計操作の手法自体は、あまり目新しくもない。SPCを使って、不採算な事業を連結から切り離して(飛ばして)、本体の見映えを良くするということであり、古くは米国の「エンロン」社などが、もっと大々的に同様のやり方に基づく粉飾決算をやっていたことは有名である。

削除されたメールでのやり取りであったり、監査法人に対して不都合な情報を敢えて隠していたりと、外形的には「故意・悪意」と取られても仕方がない。ということは、まあ業績に対する市場からの圧力に耐えかねて、苦し紛れに、一線を越えてしまったということなのであろう。

銀行員時代、粉飾をやっている会社には、随分と出会った。中小企業の決算書なんか、たいていは何らかの操作をしていると言ってしまっても過言ではない。中小企業の決算書では、税務会計と財務会計が混然一体となってしまっていることが多く、儲かっている会社は少しでも税金を節約するために利益を圧縮しようと考えるし、儲かっていない会社は銀行から借入返済を迫られないように少しでも利益を膨らませ経費を先送りしようと考えるからである。

上場企業であっても、その点にあまり大きな違いはない。監査法人という外部のチェックが入るから、あまりいい加減なことはできないだけに、手法が巧妙かつ精緻(あるいは悪質)になるだけである。つまり、経営者側の「こうありたい」「こう見られたい」という思いは、大なり小なり、決算書に反映されることとなる。

したがって、「利益は意見、キャッシュは事実」と言われることとなる。

会計基準は、その時々でちょこまかと変更がある。専門家でもなければ、細かいところまで通暁することは難しい。サッカーにたとえれば、ゴールポストの位置が動いたり、ゴールマウスが大きくなったり小さくなったりするようなものである。しかも、日本、米国、欧州では会計基準が異なる。

「利益は意見」と言われるのは、「その時点での会計基準に基づいて計算したら、(たまたま)利益は〇〇円という計算結果になりました」程度のものに過ぎないという意味だと思う。

「キャッシュは事実」とは、本当に儲かっているのであれば、手元に現預金が着実に積み上がっていくものだからである。決算書上では「利益」が出ているのに、現預金が枯渇している会社がある。粉飾決算をしているのかもしれないし、売上を上げるために不利な販売条件を飲まされている場合もある。いずれにせよ、何か重大な問題が潜んでいると考えた方が良い。

ということで、銀行員の最晩年には、僕は決算書なんか斜めに眺めるくらいにしか評価せず、資金繰り表ばかりチェックしていたように記憶している。業績の悪い取引先には、毎月、向こう1年くらいの資金計画を提出させて、計画と実績の乖離を精査していた。会社は赤字でも倒産しないが、資金不足になれば即強制終了するからである。

話を戻すが、上場企業の場合、四半期ごとに業績を評価される。経営者にとってその重圧たるやたいへんなものであろう。やってはダメだとわかっていても、会計操作に手を出したくなる気持ちは理解できる。でも、一回、そういうことに手を染めると、もう後戻りできなくなってしまう。麻薬と同じだからである。

「エネチェンジ」の創業者は、絵に描いたようなエリートであり、きっと頭の良い優秀な人物だったのであろう。そういう人でも、マーケットからの重圧に耐えられなくなると、こういうことをやってしまうのである。あるいは、優秀な自分であれば世間を欺けると思ったのかもしれない。

こういう事件があると、監査役とか社外取締役は何をやっていたんだろうかと思ってしまう。「エネチェンジ」では、常勤監査役が留任して、非常勤監査役2名が辞任している。この2名の経歴を見ると、弁護士と会計士であった。

監査役とか社外取締役は、それぞれの専門性を活かして、会社のガバナンス体制を監視することが期待されているはずなのだが、なかなかうまく機能しないようである。結局のところ、ちゃんとトップに対してモノ申せる勇気や胆力があるかどうかということであろう。

僕も経験があるが、取締役会や経営会議で、トップから上げられた議案に対して、あれこれと質問したり意見を言うのは勇気が要ることである。特に、執行サイドで入念な「根回し」が済んでいて、予定調和的な雰囲気が漂っている場合などは、なおさらである。黙って座っていた方が、トップのウケが良いし、これから先も円満にポストを維持して報酬をもらい続けたいのであれば、おとなしくしていた方が賢明であることもわかっている。したがって、大部分の監査役や社外取締役は、そういう選択をする。

結局のところ、会社の機関設計(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社)に優劣はないと思う。言うべき時に言うべきことを言える人がいるのかどうか。その一点に尽きる。

つまり、ハードウェアの問題ではなくて、ソフトウェアの問題ということになる。にもかかわらず、企業のガバナンスに関して何か問題が起きると、ハードウェアの話になる。でも、社外取締役をいくら増やそうが、いくら機関設計をいじろうが、問題はそこではない。

この「エネチェンジ」の事案で、唯一、感心したのが、「あずさ監査法人」である。会計不正を解明するために、100人規模の会計士を投入して、徹底的に調べ上げ、それに要した費用約3億円を、しっかり「エネチェンジ」に請求した上で、会計監査人を辞任した。

監査法人も商売である以上、クライアントの顔色をうかがう姿勢など絶対にないとは言い難いことは否定できないと思うが、会計監査人としての矜持を貫いた点、評価しても良いと思う。

いいなと思ったら応援しよう!