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主婦の「定年」について

夫婦2人で暮らす50代の専業主婦が、38年連れ添った公務員の夫に、夕食として焼きそばを出したところ、「焼きそばならいらない」とふて寝されたという記事を読んだ。

昭和世代の夫としては、(妻は)専業主婦なんだし、もう少し手をかけた夕食を作ることを当然に期待していたのかもしれない。それにしても、ふて寝するとは大人げない。

結婚生活38年ということは、もう随分と長い間、連れ添って来た夫婦であろう。2人暮らしということは、子育ても完了しており、夫はもしかしたら定年間近か、定年後の再雇用といったステージであろうか。

前から思うことだが、専業主婦に「定年」はないとしても、実質的な定年はあっても良いのではないだろうか。そうでないと、旦那さんが生きている限り、ずっと家事から解放されないではないか。

男性は、奥さんに先立たれると、めっきり老け込んでしまうという。逆に、女性は、旦那さんが亡くなると、急に元気になったり、若やいだりするらしい。結婚生活というものは、女性にとってはよほどストレスのタネなのであろう。

60歳とか65歳と言っても、残りの人生は長い。どちらが先に死ぬかわからないし、家のことを何もかも奥さんに依存した生活から、できれば脱却しておいた方がお互いのためでもある。これもリスク管理である。

「卒婚」という言葉がある。<婚姻状態にある夫婦が互いに干渉することなく個々の人生を歩んでいくという生活形態のこと>であるという。別居するのは不経済だし、離婚するのも面倒である。相続や財産分与とか厄介な問題も生じる。いい年をして単身生活を送るのも、何かあった時に心配でもある。

そうしたことも勘案しつつ、お互いに過度に依存することなく、「同居人」として円満で健全な共同生活を送れば良いのではないだろうか。一種の「シェアハウス」「グループホーム」みたいなものである。

したがって、旦那さんの側としても、いつまでも奥さんに食事を用意させて、その他の家事もやってもらうのが当たり前というような料簡についても、早く脱却すべきである。

「俺が稼いでいるんだから」という発想も、年金を貰うようになれば、捨てるべきである。旦那さんサイドとしては、長年、自分が働いたおかげで年金が貰えるのだという理屈である。それは正しい。しかしながら、奥さんの内助の功があったから、ここまで家庭円満でやってこれたのも事実である。

制度的にも「3号分割制度」なんてものもあって、離婚した場合、合意しなくても厚生年金の半分を奥さんに取られる仕組みがある。法律上も、結婚期間中の年金とは、夫婦が協力して得たものであるという趣旨である。年をとったら、奥さんに熟年離婚されないように、円満な共同生活を送れることが、何よりも経済的かつ合理的なのである。

そうなると、奥さんにとって過度に負担感を持たれないように、自分のことは自分でやる、あまり干渉せず、相互に自由な時間をエンジョイするといった生活態度が重要になる。あくまで「同居人」なのである。

以上のような文脈で考えると、この投書主の旦那さんに関しては、相当に再教育が必要だと思う。まずは、夕食を作ってもらえるだけありがたいと感謝すべきである。焼きそばが手抜きだと思うのであれば、自分で食べたいものを作るか、作る能力がないのであれば、外食にでも行けば良い。

場合によっては、たまには奥さんを誘って、夫婦そろって外食に出かけても良い。そうすれば奥さんも食事作りから解放される。ただし、無理強いは禁物である。夫婦の関係性によっては、一緒に外出することさえ嫌がられる可能性があるからである。

つまり、「卒婚」する以上、お互いに不快感を持たない程度の絶妙な距離感をキープすることがきわめて重要になる。夫婦のそれまでの積み重ねによって、夫婦それぞれの最適な距離感があるはずである。

投書主の旦那さんが、もし料理が壊滅的に下手で、自分で自分の食べたいものが作る能力がないのならば、「同居人」として相互の役割分担の取り決めをして、奥さんが食事づくりを担当する代わりに、掃除とかゴミ出しとか洗濯とか、他の業務を分担するというようにルールを決めれば良い。

昭和のおじさんとしては、そうやって奥さんに譲歩すること自体が我慢ならないのかもしれないが、そろそろそうした意識自体をアップデートすべきであろう。熟年離婚されるのと比較検討して、どちらが経済的かつ合理的なのか冷静に計算すれば良いのだ。

もちろん、経済的な余裕があるのならば、夫婦で同居せずに別居するという選択肢もある。

精神科医の和田秀樹という人物が、YouTubeで、「つかず離れず婚」というのを提唱していた。夫婦とはいえ、マインドをリセットして、現役時代とは違った生き方を探求すれば良い。双方にとって居心地の良い「距離感」というのは、夫婦それぞれに正解があるはずである。


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