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ドラマ「アストリッドとラファエル」について

NHKで放映していた「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」の第4シーズンが、昨日、終了した。

このドラマに馴染みがない人のために概略を解説するが、フランスのテレビ局が制作した警察ミステリーである。「相棒」シリーズと同様、「バディ」ものに属する。ただし、主人公2人は女性警察官である。

そのうちの1人、アストリッド・ニールセンは、パリ犯罪資料局の文書係で勤務するのだが、彼女は自閉症である。ただし、記憶力が並外れており、過去の犯罪資料を細部まで克明に記憶している。また観察眼や洞察力にも優れているので、監察医も見落とすような些細な手がかりを鋭く指摘することも少なくない。一方で、著しく社会性に欠けたところがあり、他人とのコミュニケーションは苦手。また、独自に設けたいろいろな日常のルールにひどく固執する傾向があり、予期せぬことには対応ができず、パニックに陥ることもある。また大きな音が苦手で、イヤーマフを持ち歩いている。

もう1人の主人公、ラファエル・コストは、パリ警視庁の警視で、考えるよりも先に行動するような猪突猛進タイプである。捜査のためならば、多少のルール違反は厭わない。バツありで、息子がいるが、親権は元夫に取られている。かなりガサツなところもあるが、おおらかな性格で、自閉症のアストリッドらとも偏見なく接する。

フランスの警察ドラマというのを見るのは、たぶんこれが初めてである。このドラマの面白さは、謎解きもさることながら、主要な登場人物が個性的であり、彼女らが少しずつ成長していく様子を丁寧に描いているところにある。

特にその中でも、アストリッドに関しては、シーズンを追うごとに、徐々に社会性を身につけていく過程が描かれている。「社会力向上クラブ」に参加して、他の自閉症の仲間との交流を通じて、他者とのコミュニケーション能力向上に自ら取り組んでいる。またラファエルとのつきあいを経て、捜査官を志すようになり、研修・試験を経て、警部補としての任官を果たす。疎遠だった実母との関係も徐々に修復した他、それまで存在すら知らなかった異母弟との交流も始まる。さらにテツオという日本人の恋人までできる。自閉症であるため、予測不能な他者と交わるのは元来は苦手だったにもかかわらず、彼女も少しずつ成長して、他者を受け容れられるだけの能力が備わってきているのがわかる。

警察ドラマでありながら、前述のとおり、主人公2人が揃って女性である。移民社会であるフランスならではというか、アストリッドやラファエルの上司であるバシェール警視正は黒人である。またガサツで乱暴者のコストが、実は大物政治家の娘だということも、あるエピソードで明らかになる。ちゃんと登場人物の1人1人を奥行きのある人間として描いているのだ。アストリッドのような障害を持った人物を主人公に据えているところにも、多様性を重んじる、いまの世の中の価値観とか風潮が反映されていると言える。日本にも、「ATARU」みたいな例はあるが、このドラマでは、もっと真面目に自閉症の人たちに向かい合っているような気がする。

先日、放映された第4シーズンの最終回の終わりの部分では、ラファエルが妊娠をほのめかすシーンで終わっている。相手は、長年にわたり、友だちなのか恋人なのかよくわからないような関係が続いていた同僚のニコラ・ペラン警部である。また、アストリッドの恋人のテツオが、大学の奨学金を打ち切られてしまい、東京に戻らないといけなくなるかもと言っていたのも気になった。

第5シーズンは、現在、撮影中であるとのことで、放映は来年以降になるとの情報である。

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