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「嫡出推定」について

「無戸籍者」問題については、随分と前に「息もできない夏」という武井咲主演のテレビドラマを見るまで、あまり関心も持たずに生きていた。このドラマを見て、今の日本で戸籍がないことの不便さについて大いに考えさせられた。

無戸籍者の場合、運転免許や資格の取得、就職等で支障が発生し得る。法務省によれば、22年8月時点で無戸籍者は793人おり、そのうち約7割は「嫡出推定」が理由で出生届が出されなかったのだという。

現行法では、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定される。これを「嫡出推定」という。父子に血縁関係がなかったとしても戸籍上は親子とみなされるため、母親が出生届を出さず子が無戸籍になるという問題が発生していた。DV等で夫から逃れているようなケースであったり、離婚よりもずっと前から実質的に婚姻関係が破綻しているようなケースが該当する。

今回の改定により、300日規定を原則として残しつつ母親が再婚した際の例外が認められ、嫡出推定の見直しとあわせて女性が離婚後100日間は再婚できない規定は撤廃された。嫡出推定の規定見直しは明治時代の施行以来初めてであるという。また、母親や子が事後的に嫡出推定を否認できる仕組みも新設された。子の出生後3年以内なら否認の訴えを提起できる。現行法では否認できず、母親が出生届提出をためらう原因となっていた。

ただし問題は残る。「離婚から300日以内に生まれた子は前夫の子」という規定は引き続き維持されており、母親が300日以内に再婚できない限り、依然として子の父は前夫と推定されることになる。本来ならば、母が再婚せず父親が定まらない場合でも子の戸籍をつくれる制度を設けるべきであろう。

そもそも、結婚自体が「オワコン」になりつつあるのに、明治時代に作った民法を後生大事に令和の世まで守り抜いてきた感覚自体が、既に相当にズレているような気がする。

夫婦別姓を選択して、敢えて事実婚を選択する人も少なくない。またフランスでは新生児の半分以上は非嫡出子(正式の婚姻関係を結んだパートナー以外のカップルの子ども)であるという。

いずれ近い将来、日本でも同じようなことになってもおかしくない。そういう時代に、「母親が再婚するか否か」を重要な判断基準に定める辺り、まだまだ世間の感覚とのズレを修正できていない。

昔々、日本の村落では「夜這い」や「妻問婚」といった風習が一般的に行われていたという。その当時、女性が妊娠した場合、誰がお腹の子どもの父親であるかは女性側が指名できたそうである。実際のところ、生物学的な父親が誰であるかは、男性側にはわからない。今ならばDNA検査があるが、そうでなければ女性の自己申告に基づくのが、実は合理的なのかもしれない。


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