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ハンコを傾けて押す会社について

僕が新卒で入社した銀行は、途中で他行と経営統合して、メガバンクと呼ばれるようになった。

それぞれ伝統のある銀行だったが、微妙にカルチャーは異なっており、少なくとも最初のうちは戸惑うことが多かった。概して、僕が所属していた銀行(便宜上、A行とする)の方が、いろいろな意味でリベラルというか、何事にも緩くて、上下関係もあまりうるさくなかった。もちろん「大手銀行の中では」という話であり、いまどきのスタートアップ企業等と比べたら、万事に保守的で、あれこれと守るべき「お作法」があるのは言うまでもない。

で、経営統合した他行の方(B行とする)であるが、こちらは軍隊か警察のように上下関係、先輩後輩のタテの関係にうるさくて、めんどくさい組織であった。

具体的な例を1つだけあげると、B行出身者は、稟議書等にハンコを押す場合、ハンコをちょっと左側に傾けて押印する。傾ける角度は傾けすぎても、傾けなさすぎてもNGである。だいたい45度くらいが良しとされる。B行出身者にとっては、新人研修期間中に先輩から叩き込まれるレベルの「常識」なのだそうである。

稟議書等にハンコを押す場合、一番下っ端が右端にハンコを押して、そこから職位が上の人が順番に左側に押していき、一番エラい人が左端になる。この点はたぶんどこの会社も同じであろう。要するに、一番エラい人に向かって首を垂れたような図柄に見えるので、エラい人に対する敬意を表していることになるらしい。

僕は、経営統合するまで、そんなシキタリは知らなかったので、最初、B行出身者にその話を教えられた際、「そんなアホな」と思ってしまった。実際にはB行出身者であっても、こういう些事にやたらウルさい人もいれば、あまり頓着しない人もいるので、ハンコの押し方でモメたことはなかったが、今でもハンコを押すときに、少しだけ身構えてしまうのは、その時のことが記憶にあるからだ。

銀行を出た後は、書類にハンコを押す機会もうんと減った。銀行というところは、どうしてあんなに毎日ハンコを大量に押さないといけなかったんだろうか。今でもあんなことを毎日やっているのだろうか。だとしたら、日本の金融業界はIT化に乗り遅れているに違いない。




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