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奈良岡朋子さんについて

奈良岡朋子さんの訃報に接した。享年93歳とのこと。

僕は、17年7月、西宮北口の兵庫芸術文化センター中ホールにて、井伏鱒二の「黒い雨」を翻案した朗読劇を鑑賞している。

当時、既に御年87歳だったかと思うが、とてもそんな実年齢からは想像もできないくらいに、背筋もシャンと伸びていて、声にも張りがあって、さすがに往年の大女優は違うと感じたものである。

朗読劇自体は、ほとんど演出らしい演出もなく、舞台中央にあるソファに腰掛けて、ただ75分間、ひとりで淡々と朗読を続けるのみの地味なものであった。それでも、客席の観客全員が大きな耳にでもなったかのごとく、奈良岡さんの声をひと言も聞き漏らすまいと、傾聴しつづけさせる話芸の凄みには心底圧倒された。

演劇というのは、突き詰めれば「言葉」であろう。シェイクスピアの戯曲や、近松門左衛門の浄瑠璃が、長い時間を経た現代でも生命力を保ち続けているのは、ストーリーが面白いこともあるが、そこに書かれている会話の「言葉」に魅力があるからだと思う。

で、その「言葉」を我々に伝えるのは役者の力である。いくら脚本がすばらしくても、役者が滑舌が悪くて、声が通らず、何を言っているのかよくわからないようだと、どうにもならない。

奈良岡さんは、師の名優/宇野重吉から、<毛を逆立てるように戯曲を読めと教え込み、せりふを極限まで粒立てる。そんな宇野演出の特訓でメッタ斬りにされて育った。>のだという。

そういう役者が1人、またいなくなったということである。

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