盛岡冷麺
冷麺って何だか苦手だと思い込んでいた。
食べたこともなかったのにそう思っていたのは、親の感想だったように思う。うちの家族は外食することがほとんどなかった。たまに行くとしてもすかいらーくか親の会社の近くの中華料理屋で、焼肉屋には行かなかった。家でのご飯は小2から私の担当だったから、レシピ集に載っているか友達の家で教わったものしか作れなかった。旅行に行くこともなかったから盛岡冷麺なんて遠い遠い食べ物だ。やたら引っ越していたから旅行はしなくてもいいと思っていたのだろうか。
東北にある冷やし中華ではない冷麺は、ゴムみたいで味がしないと聞いていた。ゴムなのか。ゴムを何で名物にするんだ? そしてうちの実家には絶対になかったキムチも載っているらしい。なるほどそれは恐ろしい食べ物だ。
それを五月の初めに焼肉屋さんで食べた。
「〆は何にする?」
と友人たちに聞いてもらったけれど、焼肉屋自体が私にとって夢の国みたいで〆など判断できなかった。先に食べられる分だけ取っていいよ、残ったら引き取るから好きなの選びな。その言葉に頷いて指さしたのはシンプルな冷麺だった。
運ばれてきた冷麺はつやつやで、澄んだスープの中にいた。取り分けようとしたけれど思いのほか力が必要だったから、それもお願いすることになった。小さなお椀に入った透明な麺が嬉しかった。
ひと口食べて驚いた。味がしないなんて嘘じゃん! きゅっとした麺にスープがしっかり絡んで、噛むのが楽しかった。ふた口目を食べようとしたら横からお酢が足されて、違う美味しさになった。心の中でわーわー騒ぎながら全部食べた。
その冷麺の本場のやつが目の前にある。
盛岡冷麺ぴょんぴょん舎。
冷麺と温麺のセットを送ってくれたのだ。大きな箱の中に小さな箱と冷麺が並んでいて、小さな箱を開けたら温麺が三種類入っていた。半分は友人に転送するために梱包して、うちの分を冷蔵庫にしまう前にめちゃくちゃ何度も作り方を読んだ。
岩手民の友達が選ぶ一番美味しい冷麺なのだから間違いない。私はできる限り美味しく作って食べたい。こんな機会はなかなかないから。
届いた当日は何も加えずにセットのそのまま作って食べた。つやつやで透明な麺が茹で上がった時には、遠慮なく声に出した。わーわー!
しっかりと水で洗って、氷でしめて、水気を切ってどんぶりに入れる。付属のスープはきゅんと牛骨の出汁が効いていて、食べ終えるのが嫌でゆっくりと味わった。2食入り……あと1回これが味わえるなんて幸せすぎる。
今日は肉味噌を作った。じゃじゃ麺みたいに。
友達に伝えたら
「地元民は思いつかないアレンジ面白い」
と言われた。しっかり小分けしてシンプルな冷麺も食べましたん……スープ最高。麺最高。
心もきゅってなる。
転送した先には今日届いたみたいだ。
そこでも同じように、最高の冷麺を食べようと心を尽くして調理されるだろう。こういう気持ちのリレーがとても楽しい。
温麺も楽しみだな。30日まで限定祭り。
岩手の海月ガール、ありがとうね。