老婦人とティーツリーオイル
数ヶ月に1回位の割合で、店にいらっしゃるご年配のsignora(ご婦人)がいる。
とても細く、いつもキャスケットをかぶっていて、お顔はしわしわのシワシワで喫煙によるとても低いカスれた声で、前置きなどなく色々と吐き出してくる。
私達の世代がやった事、やらなかった事のツケを若い人達が払っている現状が腹正しい、何も考えない同年代に吐き気がする等、お年は80近いと思うけれど、とても熱い人なのである。
昨日外に貼っておいた"喉の痛みには精油でうがいするといいですよ"
という私のpop を読んでスイッチが入ったようで、"口腔カンジダなんだけど、喉が痛くて何かいいものはないか"と云いながら入って来た。
「煙草は止めました?」
「吸わないもの」
鞄のポケットからは煙草の箱が見えているけれど、そういう事にしておこう。
その後は日々の鬱憤から自分の両親との確執等タラレバタラレバ、、、今回は失礼ながら増えているコロナ鬱的なものかなと聞いていたが、なんで何も出来なかったという後悔、なんでこんな目に合わないといけないんだと半泣きになったりされると、聞くことしか出来ないのが歯痒かった。
それと同時に (おそらく) 70年位前に父親が自分よりも姉に手を焼いていたという事をまるで昨日の出来事の様に話す様からは、三つ子の魂百までとはよく云ったもので、愛されなかったという思いが(実際どう思っていたかは分からないけれど)一人の人間にこんなに影を落とすのかと、思わずにはいられなかった。
兎に角、話し続けるsignoraの話しに相槌を打ち、聞き続けると
「あなたはとても親切だわ。そのティートリーでうがいをしてみるから、適量を書いてね」
少し落ち着いた、でもちょっとトーンが上がった声でそう云ってくれた。
彼女は私の名前も、日本人だという事すら多分知らない、何か買うのも一種の口実でただ誰かに話しを聞いて欲しいだけ。正直な所、別に何か買ってもらおうとも思っていない。
「またいつでも話しに来て下さいね」
出て行く彼女の足取りが少し軽く見えたので、ちょっと嬉しかった。