一切皆苦【短編小説】

 同い年の従妹が急に亡くなった。ここらでは通夜の前に遺体を焼く。焼き場にも来てくれと叔母が言うので、俺と母さん、姉貴と甥とで一緒に行った。

「最後に顔を見てやって。きれいにしてもらったから……」

 叔母が言い、小窓が開いた。知らない人みたいな、従妹の白い顔だった。大人になってからはほとんど会うこともなく、どんな娘だったのかもよくわからない。子どもの頃だって特に親しくはなかった。

「まだ二十八だったのにねえ」

 母さんが呟く。

 姉貴は何の言葉もなかった。四歳の甥は姉貴に抱かれて肩に頭を乗せていた。

 いつの間にか叔母が俺の隣にいた。

千紘ちひろ君……。あなたは何かあっても、ちゃんと誰かに相談してね……」

 叔母の顔は蒼白を通り越して土気色だった。

 棺が炉に呑まれる。

 控室に向かう廊下で、俺はこっそり母さんに尋ねた。

佳音かのんちゃんなんで死んだの?」
「いろいろあったのよ」

 それ以上は訊くなと、横顔が拒絶している。その態度が答えそのものだった。

 ――自殺か。

 従妹は何に苦しんでいたんだろう。人生に絶望して、最後の平穏を求めた先が死だったんだろうか。

 控室はがらんと広かった。母さんがお茶を淹れた。甥が姉貴からタブレットを受け取って、テーブルの隅に座った。

「ぼくえいがみるのー。いっしょにみよー」

 と、こっちを見るので、目が合った。

「ごめん、付き合ってやって」

 姉貴が俺を拝む。

「旦那さんどうしたの」
「配偶者の従妹じゃ忌引き取れないのよ」
「俺だって四親等じゃ忌引き取れないよ。無理やり有休使って来たんだよ」

 俺は甥の隣に座った。甥は遠慮なく俺の膝に乗ってきた。

「お前慣れすぎじゃない? そんなに会ってないのに」
「ぼくちひろおじさんしってるよー。ままのおとうとだよー」
「はいはい」

 口はたどたどしいくせに、指は一人前にタブレットを操作する。甥はどのアプリで映画を見られるかちゃんとわかって押していた。

「ぼくー、えにっきに、ちひろおじさんとえいがみたよってかくんだー」
「楽しかったってちゃんと書けよ」
「うん」

 こくりと頷く、甥の丸い頬。

「お前は元気に生きていけよな」

 撫でた頭があたたかかった。

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