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【小説】 鳥 第5話

第5話

フランスに行って、何だか全てをリセット出来る気がした。

行動すれば、違う景色を見る事が出来る! そうだ、何かを変えたければ自分が動くしかない! 何かが少し分かった気がした。

私は、軽やかな気分で旅行を終えて家に帰った。


それからは、いつもより調子良く毎日を過ごした。


……けれど、ふとした拍子に、心が付いて来ていない事に気づく。
やっぱり心は何か、幸せを感じずにざわついていた。


また私の心が呟く。

……ああ、彼が羨ましい。


旅行から帰って、さらに物が増えて、部屋の中はたくさんの小物や、お洋服で溢れかえっていた。

私は、何でも溜め込む。

自分に必要なものが分からないから。

彼のように、身軽に、軽やかに、……私は飛べない。


そうだ。片付けをしよう! 
要らないものを処分して、新しい自分だ!

部屋に押し込んでいた段ボールを引っ張り出した。

飾りきれない小物や洋服を詰め込んだ箱を一箱ずつひっくり返して、中身を確認しながら捨てた。
懐かしい! と思っても今までの自分から変わりたくて手放した、沢山の、沢山の物たち。


仕事から帰ってきた彼は、散らかっている部屋を見て驚いた様子だった。

彼はゴミ袋から一つ置物を取り出し、

「物は、大切にした方が良いよ」と、私にガッカリするように言った。きっと私のことをダメな人間だと軽蔑している。

彼は優しいからそんな事言わないけれど。

彼は、一度買った物は大切にする人だ。


——私は、自分の大切な物が分からない。全部必要で、全部必要じゃない。すごく気に入って買っても、すぐにまた違うものが欲しくなる。
……彼に買われた物たちは、幸せ者だ。

「はい。ごめんなさい」と笑顔で返したけれど、悲しくなった。彼に比べて、私はこんなにもダメな人間だ。ゴミの数が、私のダメな度合いを大きく指し示している様で恥ずかしかった。私に買われて、可哀想な小物たち。

……いいなぁ。彼に選ばれる物たちは。

買っても、買っても、私は何でこんなにも満たされないんだろう。


あんなに欲しかった物なのに、ゴミ袋に入れて、ほっとした。

私を埋め尽くすものが減ったから。

ぐちゃぐちゃに、とっ散らかった私の頭の中もスッキリする気がした。


片付け終わって、フランスから買って帰ったお気に入りの宝石箱や、香水の瓶を、きちんと並べた。

これで、変われる気がした。自分の好きな国に行って、要らなくなったものを手放して、好きな小物たちに囲まれて。いつもと違う行動をとる! 新しい私!

いい感じだ! ……きっと。


そう思っていたのにそれでも、何かの不安が不意を突いて現れる。何かがダメな気がして仕方がない。

いつも同じ罠にはまるみたいに。沼に沈むように。


何かが、私の足を引っ張る。前向きなはずの気持ちと裏腹に、もっと私の奥の方で、私を沈めたがる。

私はそれを、捕まえきれない。


大学の友達と仕事帰りに偶然会って、たまたま休みが一緒だったのもあって弾丸旅行をしようという事になった。

今は、何か気分を変えることがしたい。

旅行では愚痴を聞いてもらおうかと思ったけれど、仕事が充実していた友達には何も言えなくて、ただ笑って過ごした。

帰りに、お土産売り場で彼にそっくりな狐の置物を見つけた。

何だかすごく連れて帰りたくなって、沢山ゴミ捨てをして片付けしたばかりなのに、買ってしまった。

家に帰ると、また物を増やしてしまった自分が嫌になって、狐の置物をリビングに飾った。

自分の部屋がまた埋もれていきそうで、自分が怖かった。

毎日、同じような日々。

こんなに近くにいるのに、彼との距離が段々と離れていくようで、心がモヤついた。



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