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【小説】 鳥 第3話
第3話
仕事を始めて数年経つと、ある程度責任のある仕事を任される。
けれど、勤めた年数に比例して誰もが能力が上がるわけではない。
みんなの当たり前が、私にとっては当たり前ではない。常識が私にとっては常識じゃない。すぐにまた同じような失敗をする。みんなの当たり前が、私には出来ない。
仕事でのミスの積み重ねが、延々と自分を責め立てる。解決した事でさえ、反芻する様に、その記憶を拾いに行く。
意味のない事だと分かっていても、やめられない。
反省している時間が、自分を真っ当な人間だと思わせてくれている様で。
……羨ましい。
自由に羽ばたく彼は、美しい鳥のようだ。
ずっと、何かが満たされないでいた。むず痒いような、叫び出したいような。
不満というより、……もっと何か良いものがある気がした。もっと自分を爆発させられる様な、素晴らしい何か。
彼は、今日も私と一緒に居てくれる。
けれど最近は一緒に居るほどに、何だか憂鬱な気分になる。
何でなんだろう。何だか胸が重い。
彼は、
「最近、元気ない気がするけれど、大丈夫? 何かあった?」
と私の変化に気づいたようで声を掛けてくれた。
「何もないよ。大丈夫。ちょっと、仕事が忙しくて」
私は笑って答えた。
理由をつけては、一人で出歩く事が増えた。
一人の時間は、心が落ち着いた。彼と比べなくて済むからだ。
多分、自分に自信が無いからだろう。
彼の横を歩く私は、いつも不釣り合いな気がしている。
身なりを整えて良い服を着ても、私なりに頑張ってみても、きっと彼の様にはなれない。
……どうすれば良い?
私はもっと、何をすれば良い?
色々な本を読んでみた。
自分を変える方法。
実践して、変わらなくて、やめる。その繰り返し。
羨ましい。羨ましい。羨ましい。
憧れを通り越して、多分きっと彼が妬ましかった。
特別な何かを持っているのがずるい。彼自身が望んでいなくても持っている。
彼が仕事の話をするたび、きっと、ずっと彼の事を妬んでいる嫌な感情と対峙していた。
彼はいつだって優しかった。
毎日、毎日。彼のそばにいるほどに、嫌な自分が現れた。
そんな自分を眺めているのが嫌だった。