【小説】 白(シロ) もうひとつの世界 第13話
第13話
それから度々ジャスミンは、店に顔を見せる様になった。
約束通り、手作りのお弁当を持って来てくれた。
それを休憩時間に一緒に食べるのが日課になっていった。
二人での食事は、僕の疲れた心を癒してくれた。
不思議な事に、彼女と過ごす時間は心を覗かれているような気分にはならなかった。
——もしかして、今までの事も僕の思い過ごしだったのか。
他人に心を覗かれているなんて変な話だ。
きっと、不思議な事が続いて気が立っていたんだ。
ジャスミンがいる日は、リリーはお店に遊びに来なかった。
——リリーは、今何しているんだろう。
二週間もリリーを見なくなって、僕は少し心配していた。
ジャスミンと過ごす日々は穏やかで、優しい気持ちになれた。
リリーに抱くような、感情をひどく揺さぶられる様なものでは無くて、ただただ温かい気持ちになれた。
けれど、ジャスミンと一緒にいる時間は何かが少しだけ物足りなくも感じた。
「妖精のリリーさん、今日も来ないのね」
僕の心をそのまま言われた様で、どきりとした。
僕は慌てて手を動かしながら答えた。
「彼女も何か楽しんでいるんじゃないかな? まあ、僕は仕事があって相手出来ないし良いんだけど」
「そっか」
優しい笑顔でそう返事をするジャスミンに少し本音をもらした。
「……ただ最近、リリー遊びに来ないな〜って、僕も思ってたよ」
するとジャスミンは少しだけ怒った様子で、
「ちょっとぐらい顔見せに寄ってくれても良いのに……ジャンの事、放っておくなんて」
その言葉に、また本音がもれた
「……僕以外に、いい人でも出来たのかな」
ジャスミンは、僕の顔を見て聞いた。
「……寂しい?」
「ちょっとね。……でも君がいるから、楽しいよ」
僕は、ニコリと笑った。
「そっか。ありがとう。……そう言ってくれて嬉しい」
ジャスミンの笑顔は、僕の心を見透かしているかの様だった。
僕の本心を知っている様だけど、何も言わない。
笑顔の奥に言葉と反対の本音が垣間見えた瞬間、ジャスミンとの間に、見えない線が引かれるのを感じた。ポロポロとこぼれ落ちる本音を、僕は慌てて拾った。そしてこれ以上こぼしてしまわない様に、ぎゅっと本音を隠した。
妙な沈黙が流れた後、ジャスミンが口を開いた。
「……私、ジャンの事好きなの……気づいているかもしれないけれど」
彼女からの告白、突然の事だった。
けれど僕は、あまり驚かなかった。
何となくそんな予感はしていた。僕自身、彼女にはとても惹かれていた。