【小説】 白(シロ) もうひとつの世界 第20話
第20話
しばらくしてアンナが席にやって来た。
「ごめんなさい。お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ」
僕はモデルのような彼女を目の前にして少し緊張していた。
こんなに綺麗な人に会ったことを忘れていたなんて。僕の記憶力はどうなっているんだ。
「私、ジャンに会ってみたかったの! リリーが、よくジャンの話をするから。まさか一度会っていた人だとは思わなかったけれど。想像と、いい意味で違っていたわ」
僕は、隣で羽根を羽ばたかせて飛んでいるリリーの方を見上げ、小声で言った。
「君は僕の事、なんて言っていたんだよ」
「秘密!」
そう言って、リリーはアンナの近くへ腰を下ろした。
「ふふっ。でも安心した。リリーは心配していたのよ。最近のジャンは元気ない。って、言っていて。でも元気そうで良かった」
「そうだったんだ。ごめん。心配かけて」
「もう、言わないでよ。アンナ」
リリーは恥ずかしいのか、プイッと顔を背けた。
「それで……悩み事はもう大丈夫? 私で良かったら聞くけれど」
「えっと……。悩み事というか……作り話だと思ってもらっても良いんだけれど」
「うん」
「えっと……どこから話せば良いのか……あ、扉。この街をぐるっと、囲む森の中に異世界に繋がる扉があるって言う話……聞いた事ある?」
「ああ、あの異世界への扉のことね」
「えっ?? 知っているの?」
「もちろん」
「どう言う風に、知っているの?」
「別名、パンドラの箱でしょ?」
「パンドラの箱???!!!!」
そんな呼び名だなんて聞いた事ない。
そもそも、さも当たり前のように、異世界への扉の事を話すなんて。
こっちはきっと変人だと思われると予想していたのに。
「えっ? その扉の話じゃないの?」とアンナは驚いている僕に向かって言った。
「そういう呼び名は初めて聞いたけれど」
「嘘でしょ? みんな知っている名前だし、有名な話じゃない。触れたらいけない扉。全てを変えてしまう。強力な魔力が宿っていて、恐れられているわ」とアンナは驚きながら答えた。