【小説】 猫と私 第3話
第3話
休日、その日は朝から機嫌が良かった。
あのワンピースを着て、お出掛けすると決めていたからだ。
あえて友達と約束はしていなかった。
何も決めずに、一人で思いつくままにお出掛けしようと思った。
唯一決めていたのは、あの川沿いを歩く事だ。
中学生の頃に見かけた白いワンピースを着ていた彼女の様に、このワンピースを着てお出掛けすれば、私も素敵な人に出会える気がした。
童話のシンデレラのお話は大好きだった。
魔法をかけてもらって、綺麗なドレス姿に変わって。
王子様に見つけてもらえる。
朝から短い髪を巻いて、黒いワンピースを着た。仕上げにお気に入りのジャスミンの香りの、オードトワレを少しだけつけた。
それだけで嬉しかった。鏡の前でくるくると回った。
小さな鞄を持って家を出た。何か素敵な事が起こる予感がした。
空はカラリと晴れていて、とても心地の良い風が吹いていた。
そして川沿いのお花たちは、今日も可愛く咲いていた。
川沿いを歩いていると、近くに行列が出来ているお店があって店内にゾロゾロと人が入っていくのが見えた。
ちょうどオープンの時間だったみたいだ。
よし、今度はあのお店の所まで行こう。
近づいてみると、カレー屋さんだった。
そう言えば、友達がこの辺に新しく出来たカレー屋の話を前にしていた。
新しく出来たこのお店は、いつも行列が長くてすんなり入れないらしい。
こんな時間にあんなに並んで入って行くなんて。きっとすごく美味しいんだろうな。
と、お客さんがみんな入りきったお店の前でメニューの看板を見ていた。
すると、その後ろにまた列が出来始めた。
あれ?どうしよう。でもすごく美味しそうだし、思い切って、一人で入ってみようかな。
もうお姫様というより探検家の気分だった。
その時、中から店員さんが出てきて、私と、その後ろに並ぶおじさま三人組をチラリと見て私に、
「何名様ですか? おひとり様でしたら相席でお願いしています。よろしいでしょうか?」
と聞いてきた。
よろしいでしょうか。と聞かれてダメです。とは言いにくかった。
お店に入ろうか迷っていたところだったけれど、
「ああ、はい。おひとり様です」
と、答えてしまった。
あれ? 答え方変だったかな。と考えているうちにサクサクと中へ案内された。
「こちらのお席へどうぞ」
ピシッと指先を揃えて案内された席の向かいには、男の人が座っていた。
その人にペコリと頭を下げて席に座った。
その人はこちらをチラッと見て、すぐに俯いた。
一瞬見せたその顔はすごく整った顔立ちで、不機嫌そうな顔だった。
迷惑だったかな。
ふらりとお店に寄るべきじゃなかった。
しょんぼりとしていると、その男の人の後ろにある窓の外、塀の上にスラッと立っている真っ白で美しい猫を見つけた。
白い猫はピタッと止まってこちらを見ていた。
猫は私に、そんな色のワンピースを選んだからじゃない? 白の方が可愛いのに。
とでも言っている様だった。ただこちらをジーっと見ていた。
私は、黒も可愛いもん。という顔で猫のことをじっと見返した。
色々な顔をしてみたけれど、白い猫はピタリと止まって訴える様な目で私をじっと見ていた。