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弁護士に相談したいなら「で、どうしたいんですか?」を明確に

大阪で30年保険代理店をやっています。こういう仕事をしていると、トラブル解決に強い!と思われがちです。しかし、それを私が中に入って交渉しちゃうといろいろと問題ありです。そういったお仕事は弁護士の先生のフィールドです。

ということで、弁護士の先生への相談の仲介をすることがあります。その時に一般的な方の認識と、弁護士先生の仕事とのギャップについてを感じることがあります。

ある分譲マンションの欠陥住宅問題

けっこう印象に残っている問題の一つが、マンションの欠陥住宅問題。基本的には売り主・施工会社は前向きには対応しているのですが、その対応が今一つ気に食わないのが住民側。たとえば、フローリングが傾斜している、という住民の訴えに対し、施工会社は補修しますという。はじめのうちは住民もそれで様子を見ますが、結局上手く治らない。住民としては、根本的にやり直してほしいとか、雨漏りがあるのは基本的な躯体の問題ではないかとか、どんどん不安が増してきます。

一応、施工会社は話を聞き、補修はしてくれるけどそれがまったく満足のいくものではなく、2年、3年と月日がたっていて、住民で構成する管理組合ではもううんざりとばかりに、弁護士にこの辺りのやり取りをすべて引き取ってもらえないか、という話でした。

弁護士事務所での埋まらない溝

管理組合の代表が、ある弁護士事務所に相談に伺うことになりました。管理組合の理事長はこれまでの経緯、今の状況、そして住民のやるせない思いを弁護士先生にぶつけました。弁護士先生は「なるほど、それは大変でしたね」と共感を示したうえで、こうおっしゃいました。

「で、どうしたいんですか?」

管理組合の理事長は、だから…とばかりに、窮状を訴えます。言いたいことは、「何とかこの住民の不満を納得させるような回答を、施工会社なり販売会社から勝ち取ってください」ということを強調します。しかし、弁護士先生の言葉を要約すると、逆に「どうなれば納得できるんですか?」ということ。

ここで気づいたことは、管理組合は問題点はいくつでもあげられるけど、どうしてほしいかという具体的な案がなかったのです。

たとえば、お金で解決したいのか、
あるいは、このマンションを買い取ってほしいのか、
それともキッチリと修理してほしいのか。
そういった方針を明確にしてから議論を始めましょう、というのが弁護士先生のお考え。しかし、管理組合はそれを含めて提案してほしいという考えだったようです。

住民側は弁護士が提示した要求をのむことができるのか?

整理すると、管理組合はこういった状況かにおいて、法的に何が請求出来て、それはどこまで可能性があるのか、といういわばメニューをまずは出してほしいというイメージを持っていたと思います。しかし弁護士先生は、「こちらの提案であなたたちは納得できますか?」というスタンスをお持ちのようです。恐らく、クライアント側が何を求めるかを明確にしてから、それができるできない、できるとしたらいくらかかるというのがその弁護士先生の頭の中の回路の作りだったのでしょう。

逆にお金が欲しい、という希望がはっきりしていれば、そのためにどういう根拠を示せばいいかを考えられるのだけど、管理組合は「お金の問題ではない」と言います。これではいざ、仕事を受けても確かに満足のいく結論は出そうにありません。

また、相手となる販売会社や施工会社は一部上場企業。法的にマズい手続きをすることはあまり考えられないという意味で、勝ち目のない話という判断をはじめにしていたのかもしれません。

何を求めるのかを明確に

これは日本人の特徴かもしれませんが、弁護士を前にして「自分がいかにつらかったか」「自分がどんなに痛かったか」「自分がどんなに悲しかったか」といった主観的な主張をされる方はけっこう多いように思います。もちろんそれも大事な要素ではあると思うのですが、弁護士先生の戦場はすべてが論理的に展開されるべき法廷であることを考えると、もうすこしロジカルに寄せた思考が必要となるかもしれません。

痛みを和らげることは弁護士にはできませんし、悲しみを和らげることも、つらい思いを慰めるのも弁護士の仕事ではありません。嫌な言い方になるかもしれませんが、それを例えばお金という万人共通の価値に読み替えるのが賠償金です。ですから、感情論はいったん脇に置いておいて、その感情を修めるためにお金が欲しいのか、契約をなかったことにしたいのか、そう言ったことを明確にイメージしたうえで相談に行くのが良いのかもしれません。

少しいやらしい言い方になりますが、感情的なことを含めてお金で解決するのが弁護士の仕事ではないかと感じています。となるなら、お金の話にしたくないならば、相談すべきは弁護士ではないかもしれません。



本文とは全く関係ありませんが、私はこんな本を書いてる人です。


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田村薫
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