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味噌と豚汁と発酵と

先週『有賀薫の豚汁レボリューション』の発売記念として、下北沢の発酵デパートメントから、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと味噌×豚汁のオンラインイベントを配信しました。

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発酵デパートメントにある味噌から3種を選び、本の中からその味噌に合う豚汁を選んでチューニングするという企画。選んだ味噌3種のフルサイズと『豚汁レボリューション』が視聴券についてくるというセット券が人気で、実際に聞きながら味噌の味比べができるという仕掛け。

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ヒラクさんの面白いお話は再現できませんが、このnoteでは、当日使った味噌と豚汁の組み合わせを私の方からご紹介したいと思います!

1.五味醤油「やまごみそ」と、じゃがいも豚汁

まずは、もっともスタンダードな味わいのお味噌を紹介します。それが、五味醤油のやまごみそ。五味醤油は、山梨県甲府市で150年にわたって醸造業を営む味噌屋さん。

味はクセがなく食べやすい、非常にスタンダードなタイプのおいしい味噌です。(発酵デパートメントには珍しく)でも、実はすこし変わり種。

【ちょこっと予備知識】おおまかに言うと、味噌は「蒸した大豆・塩・麹」を合わせて半年から1年ぐらい寝かせて作ります。「麹」は穀物に麹菌というカビをつけて発酵させたもの。麹のはたらきによって蒸した大豆を腐らせることなく、うまいぐあいに発酵させて味噌にしてくれるのです。

味噌は麹の種類によって米味噌(米麹)、麦味噌(麦麹)、豆味噌(豆麹)となりますが、通常は地域によって分かれていることが多いのです。ところが、このやまごみそは米の麹と大麦の麹を合わせた、いわばミックス味噌なんですね。合わせ麹は甲州みその特長で、山に囲まれ平地が少ない甲州では、二毛作によってできた米と麦をそれぞれ麹にすることで短期間で必要な麹を作るということをしていたのです。

麹を合わせることで米麹の甘みと、麦麹の香り、両方の良いとこどりになります。さらにやまごみそでは麹にも強いこだわりをもって手作りしており、さらに味噌の仕込みには昔ながらの木桶を使っており、そこに棲みついた麹菌がじっくりと味噌を熟成させてくれるのです。

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このやまごみそは本当にオールマイティな赤みそで、どんな豚汁にも合います。そこで今回は、季節の野菜を使った豚汁ということで、本の最初に出てくるじゃがいも豚汁を新じゃがで作ってみました。

水分の多く、通常のじゃがいもより味わいは浅い新じゃがですが、うまみの強いやまごみそなら、だしも不要。豚との相性はもちろん抜群です。まるで肉じゃがみたいながっつり豚汁!

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やまごみそは甘みもうまみもしっかりあるので、本のレシピにある豚バラ肉ではなく、ロース肉でしっかり味がととのいます。甘みもしっかり感じられるため、クレソンを添えて、少しさわやかさを出しました。

2.小池糀店の「木曽こうじ味噌」と、トマトン汁

さて、2品目は、明治12年創業、小池糀店の木曽こうじ味噌(味噌玉熟成)です。この味噌は今回扱う3品の中でもかなりの個性派。封を切ると、まるでチーズのような強烈な匂い!

この小池糀店のある長野県、木曽には、非常に特殊な味噌づくりの習慣があります。それが大豆を丸めて作る味噌玉です。これは大陸にある味噌玉ともまた製法が違い、この地域にしか見られないものだそうです。

通常は蒸した大豆に塩と麹を混ぜて発酵をスタートさせるわけですが、このこうじ味噌は、蒸し煮した大豆を円筒形に固めて白いカビが生えるまで蔵の中に置いておきます。ここにはまだ塩が入っていないため、塩に弱い微生物が仕事することによって、ほかの味噌にはない独特の風味が生まれます。冷涼な山あいの気候によって生まれたローカル色の強い味噌です。

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できた味噌はコクが深く、乳製品のようなくせのある香りで、普通の味噌になれた人がそのまま味噌汁に使うのはややハードルが高いかもしれません。ディップしたり、料理に使ったりという味噌ですね。でも、豚汁となると、これがいけるのです。

いくつかのレシピで迷いましたが、私が選んだのがトマトの豚汁、トマトン汁です。これをこうじ味噌で作り、あらびき胡椒を効かせてもらいました。

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あら不思議、ちょっとおしゃれなイタリアンで出てくる料理になりました!

こうじ味噌のもつチーズのような風味が、トマトと合わせることで本当にチーズと錯覚するような味わいになるのです。さらにパルミジャーノなどのチーズをおろしたり、刻んだパセリを添えるとさらに味に広がりが出ると思います。驚きの味噌で驚くおいしさの豚汁ができました。

3.羽場こうじ店の「㐂助味噌」と、くるくるキャベツ豚汁

最後は、秋田・横手で大正7年から麹づくりをしている、羽場こうじ店の特上・㐂助味噌です。きすけみそと読みます。横手は、麹づくりが盛んな土地で、この蔵では秋田杉の麹箱や菰(こも)といった昔からの製法で麹を仕込んでいるとのこと。

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この特上味噌の大きな特徴は、麹の量が普通の3倍(!)入っていることです。写真でも、麹のつぶつぶが見えますよね。麹が多いということはうまみがすごいということです。また、発酵が早く進むため、保存性のための塩分を控えることができます。この味噌は塩分が通常の味噌と比べると少し低めの8.7%(通常は12~13%)。でも、味わってみるとなぜか他の味噌とそれほど変わりない塩味を感じます。うまみと塩味がうまく合っているんですね。

とはいえ、できる味噌汁は甘味をとても感じるものになっていきます。そこで今回はキャベツを使ってさらに甘みをブーストさせていきます。キャベツのくるくる豚汁です。

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豚ロース肉を、何も入れずにただ巻いて、それをキャベツと蒸し煮します。やさしい味の豚汁に、やさしい甘みの味噌が合います。引き締めるために練りからしをそえて。レシピ上では、この豚汁でも本で使っていた豚バラ肉を脂身の少なめのものに変えました。脂少なめ、塩分ひかえめ。ヘルシー豚汁でもあります。やさしい分パンチが弱い気もします。そこで、巻いた肉の食べ応えで補います。
パセリを刻んだのを入れたのは甘さを引き締める役割で、じゃがいも豚汁などと同じくクレソンもいいですし、三つ葉でもいいかもしれません。ただの色味ではなく、ほんのり苦みのあるものが効果があります。

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さて、味噌と豚汁のマリアージュ、いかがでしたか?イベントではもっと詳しい味噌の解説などがヒラクさんからされたのですが、noteではここまで。

発酵デパートメントではこうじ味噌、やまご味噌が買えます。(㐂助味噌は品切れになっているようで、入荷待ちです)
5月23日(日)はトマ豚汁×こうじ味噌、5月29(土)と30日(日)はじゃがいも豚汁×やまご味噌の定食が限定で出るとのこと。近くにご用事があるときはお寄りください。

いつもの味噌だと安心の味、味噌を変えれば冒険の味。どんな味噌でも受け入れる懐の深さが豚汁の魅力のひとつです。この本で気軽に味の組み合わせを楽しんでみてくださいね。

最後にうれしいお知らせ。豚汁で1冊『有賀薫の豚汁レボリューション』、発売から約1か月で重版決定!幅広い方に手に取っていただき、おうちで豚汁を作ってもらえたらこの上ない幸せです。



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有賀 薫
読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。