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うつわとClubhouseと、思いのたけの届く先

お風呂に入りながらスープのうつわについて考えていて、突然キラーン!とひらめいた。

私は、2年前に作る・食べる・片づけるを一体化したミングルというごはん装置を作って(ミングルについての詳しいことはこちら)、以来ミングルを中心に食生活を送ってきた。コンパクトな設計はなかなか快適だし自分の仕事に満足していたので、毎日の暮らしの中である不具合があることにずっと目をつぶっていた。

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上下水道、IHコンロ、食洗器がオールインワンのごはん装置「ミングル」(2019)

それは、食洗器。食洗器を私はミングルを作って初めて使うようになった。(そのときの感動をこちらのnoteでレポートしている)洗い物からの解放は水と火を自由に扱えるようになった現代の台所でもなお課題であり、それを大きく解決する食洗器は現代のキッチンには不可欠の道具だと思う。

大歓迎すべきこのマシンだが、実は日本の食のスタイルと相性が悪い。日本の食卓は平皿中心の西洋料理と違い、茶碗、お椀、小鉢、盛り鉢など、深いタイプのうつわが多く、食洗器のラックにうまくおさまらないのだ。食洗器は基本的に一枚ずつが少し離れていないと水や洗剤が入り込めないので機能しづらい。ミングルにつけた食洗器はビルトインタイプの食洗器で容量はかなり大きいのに、茶碗や小鉢が多い日はすべての器や汚れたキッチン道具が入りきらないことも多い。
昨年の春ごろから家族のリモートワークが常態になって家での食事が圧倒的に増え、洗う器も増えたことで、その違和感はさらに強くなった。

食洗器に入れやすい、いい感じのうつわがあれば……。

そんな欲望が私の心にぽっと芽生えた。その考えはしばらく私の中でふわふわしていたのだが、何をどうしたかお風呂でゆらゆらしていたときに、これだ!とひらめきが降りてきた。

形状が変わるうつわを作って、使うときは深さを出し、洗うときはプレートにして洗えばいいのでは。

ひらめき、なんて偉そうに行ったけれど、だいたいにおいて、素人の考えは、先にちゃんとしたプロが考えているものだ。私としてはそういう食器があればいいわけだから、買えるなら簡単に済む。グーグルで「器 可変」とか「皿 可塑」などさまざま検索してみたのだが、これがうまく出てこない。誰も考えていないのだろうか。それとも、考えてもうまくいかないのだろうか。

だったら自分で作れないかな、と思ってしまうのが私の性格。でも皿については全くの素人だしどこから始めればいいのかわからない。ここは誰かの助けが必要……いや、誰かではない、あの人の助けが必要だ!

ということでお声がけしたのが、その肩書も「適量生産プロダクトデザイナー」TENTの青木さんだ。

このTENTのサイトを見てもらえればわかると思うけれど、クリエイティビティが半端ない。誰もがうっすら心の中で思っていて、でも誰もが思いつかなかったコトを、モノにしている。

実は私のミングルでも、TENTの商品が大活躍だ。それが持ち手のはずれる皿型のフライパン「JIU(ジュウ)」。

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今やミングルに欠かせないアイテム。うちでは取っ手はずして使っている

TENTのみなさんがときどきnoteなどで見かける思考のプロセス的なことにもすごく興味があったので、以前青木さんにお声がけしてうちに来てもらい、ミングルでおしゃべりしたことがあった。今回①ミングルのコンセプトを知ってくれていて、②私の欲しいものが何かきっと理解してくれる、これは青木さんしかいないと思ったのは、そういう理由。

それで、ものすごーく唐突にTwitterのDMで(それしか連絡先を知らなくて)、青木さん、こんなうつわ作りたいんですが私素人なのでモノ作りするときのやり方を教えてくれませんか?という超・解像度の低い質問をした。そうしたら、思いもかけぬ返事が来た。

Clubhouseで打ち合わせしませんか?

こんな思いつきのレベルでプロと打ち合わせとかしちゃっていいのか?と一瞬思ったけれど、こんな幸運はそうそうない。「じゃ、今夜!私がルーム立てます!」と、とんとん拍子に話が決まり、声をかけてから12時間も経たずないうちにClubhouseでの打ち合わせが始まったのである。おそるべし。

結果的にこの打ち合わせは多くのリスナーを巻き込んで非常に実りのあるものとなった。最初のうちは、アイデアを可能にする素材探しと、話を持ち込んだら作ってくれそうな工場ってどこでしょう?みたいな話からスタート。「グーグルで検索して、問い合わせフォームから問い合わせます」「えっ、プロなのに問い合わせフォームで 笑」みたいなやりとりをしていたのだが、やがて手を挙げてくれるリスナーたちがあらわれた。

錫(すず)がいいのでは?という話に「錫の工房知ってます」と教えてくれる方がいたり、従来の陶芸の作り手からの声を聴いたり、中川政七商店の展示会ご担当者からイベントでお話をぜひ、みたいなお誘いを受けたり、とうとう最後には「今話を聴いて図面引いてます」という設計者まで現れて、たいへんに盛り上がった。(実際その図面はClubhouse後にメッセンジャーでやりとりさせてもらっている)

ガヤガヤしながらモノづくりを楽しむ熱気あふれたルームはリスナーたちにも楽しんでもらえたのではないかと思うが、実質的にも私にとっては学びが非常に多かった。

このルームの温度感が一気に上がったのが、私が自分で作った皿の試作を、青木さんにお見せしたときだった。

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うつわに使える素材なんてうちにないので、とりあえずアルミホイルを丸く切って、こんなイメージというものを作っていた。深さが変わることがどういうことか、食洗器に入れるときにまっすぐだと便利ということが分かればいいかなと思って軽い気持ちで作ったものだ。

でもやっぱり、形が見えるって強い。みんなで一つのビジュアルを共有できたことで一気に連帯感ができた。これをたたき台に、話は一気に進んでいった。

このとき青木さんがしてくださった話がすごく印象的だった。Clubhouseは記録ができないのでうろ覚えだが、ざっくり意訳する。

D.I.Y.の延長線上に全てがつながっている。
試作は大事。
どんなに練った企画書よりも、衝動に任せて作ったグチャグチャな試作のほうが、比較にならないくらいスピーディーに次の段階に進むことができる。
工場は魔法使いではないから、言葉やイメージで伝えても期待を越えるものは出来ない。
どんなに雑な手作りでも、意図が明確に伝わる試作があると、成功しやすい。
・プロって案外プロじゃない。課題意識の当事者性が多少薄くても、プロはルーティンでもできてしまうという落とし穴がある。大事なのは、素人の持つ「これじゃない感」だったりする。
・個人的なことを実現するということは大変だけれど、それができたときに、なぜか多くの人に共感してもらえることが多い。
・試作を手で作るというような熱量がものに伝わる。どんなにアイデアがよくてもその熱量がこもらないものは、魅力あるものになっていかない。

こんな話を青木さんがダーッとされて、その熱がルーム全体に伝わっていった。私はただただ、ものづくりにかけてきた人の言葉はすごいなと思いつつiPhoneのこちら側でうなずくばかりだった。でも自分のつたない試作に込めた気持ちを青木さんが汲み取ってくださったようで嬉しかった。

日々使ううつわは、スープをよそって漏れなければ、とりあえずの役割は果たしていることになる。でも、その存在が私たちのくらしを作り心持ちを作っているから、私たちはそこに使い勝手の快適さを求めたり、また心地よいデザインを求めたりするわけだ。
それなのに日々のくらしの中でふと感じる疑問や、もっとこうならないかなという気持ちを、案外消費者は抑え込んで、こんなもんだよねと我慢しながら日々をやりすごしている。

私も長年そうだった。でも、私のほんのちょっとした願いを本気で考えてくれる人はいつまでも現れなかった。だったらやっぱり自分でやるしかない。やってみて、例えそのことで満足するものができないとしても、その先にはきっと違う風景が見えるはずだから。

家電もキッチンツールも食器も、そしてキッチンそのものも。家庭の中でそれを使う人の声がきちんと反映されていかないということは、企業の限界でもあるのかもしれないが、同時に目先の便利さに惑わされて本質的な快適さを考え訴えることをサボってきた、使う側の怠慢でもある。情報社会というのは私たちが情報をただ受け取るだけでなく、同時に情報を発信することを求められている社会なのだから、一方通行じゃだめなのだ。(キッチンの声がしっかり届くようになれば、それこそが女性の社会進出っていうんじゃないかな、みたいなこともそっと考えてみる)

こういう抽象的な話は、言葉だけでは説得力が薄い。「こうしたら、ほら、便利でしょ」と具体的なものの持つ力が言葉に加わればもっと世界とやり取りできることを、ミングルを作って知った。もはや日常使いのうつわではなく、そのコミュニケーションツールとしてのうつわを、私は作ろうとしているのかもしれない。そんなことをこの原稿を書きながら考えている。

うつわづくりのClubhouseのファースト会議はとりあえず終了したけれど、この続きもClubhouseで公開会議してみようか、なんてご相談も青木さんとしたりしました。どうなるやらですが、どうぞのんびりとお待ちください。

#dish2021

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有賀 薫
読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。