世間知とどうふれあうか
家の料理からもう少し視野を広げて、「家事」について思いをめぐらせています。
今読んでいる東畑開人さんの『聞く技術 聞いてもらう技術』という本に「世間知」というワードが出てきました。専門家ではない、ごく普通の人の知識や経験には人を助ける強い力がある。でも現代ではその世間知は大きく変わり、昔のようにひとつでなく複数あるから共有するのが難しい…ということも書かれていました。
料理のレシピ本をたくさん出していながらこんなことを言うのもなんですが、本や雑誌の記事に書けることって、料理の手順からするとほんのわずかです。「プロの技というほどのことではないちょっとしたこと」が、実はおいしさのコツだったりする。それをすべて文字化すると、ひどく難しそうに見えてしまう。初心者向けのレシピ本ほど、簡単に見せるためにそうした細かいことを削ぎ落として短くなります(私はこれをレシピ本のパラドックスと呼んでいます)。
だから料理を覚えるのに一番いいのは、料理上手な人の横に並んで一緒に料理しながら、ささいなコツを教わることです。卵の割り方、青菜の洗い方、野菜の皮のむきかた。料理以前のことが実は大きいのです。隣で見ていて、なぜそうするんだろう?と思ったところをその場で聞ければすぐに身について、一生ものの知恵となります。リアルな料理教室の強みはまさにそこですが、誰もが料理教室に行けるとも限りません。
親から子へと料理を教え込んだり、近所のおばさんからお惣菜のおすそ分けをもらったり、道端で出会った知り合いから今日の献立のヒントを得る、そんなことも少なくなりました。でも、そもそもの話として、便利な食材や加工食品、外食の選択肢も増えた今、家庭料理の常識はどんどん変化していて親世代の知恵が役に立つとも限りません。
育った環境や家庭状況によって、料理する人しない人、男性女性、子どものあるなし、一人暮らしと大家族。さまざまな悩みがあって、それぞれ解決方法も違います。まさに東畑さんが言うところの、複数の世間知が存在する時代になっていることを、料理の情報を発信していてひしひしと感じます。
料理をゼロからひとりで何とかしなくてはならない人たちが増え続けています。それはなかなか険しい道のり。プロじゃなくても誰かにちょっと相談できるだけで格段に楽になりますし、新しい気づきはもちろん悩みがするりと解決してしまうことだって多々あります。昔の井戸端会議的なコミュニケーションがとれるといいですよね。
現代でそうした場を整えるには少々工夫も必要です。自分と似た環境や世間知を共有できそうな人とのつながりを積極的に持っていくというのは悪くないんじゃないかと思います。対話には想像以上の力があるからです。
私が来週やるワークショップは、そうした世間知のやや違う層を分けるという意味で、男性向けとしました。ご夫婦での参加はOKですし、それほど手厚いフォローはできませんがお子さん連れも大丈夫です。料理もちょこっとやります(私が)。どうぞ気軽においでください。
世間知にふれつつ、楽しい時間を過ごしましょう。
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そうそう、バナーの写真は、キャベツ農家さんから教わったキャベツ料理です。といってもキャベツのざく切りと、ツナ缶と、マヨネーズを混ぜただけ。私はあえるまえにほんの少しだけ塩をふってちょっと置き、出た水分をぎゅっと絞っています。こうすると味が締まります。