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添削屋「ミサキさん」の考察|1|「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」を読んでみた①
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(2021年1月12日発行・日経BP社・「文道」藤𠮷豊・小川真理子著)
私は「添削屋」の観点から普遍性を持つ部分を注意して読みました!
私がこの本に関心を抱き読み始めたきっかけは、もちろん「添削屋」稼業の勉強のためです。
そういう意味では、さすが100冊の文章術から抽出しただけあって、文章の普遍的ともいえるルールが簡潔にまとめられていて便利な本です。
その中でも頻出ランキング1~7位をまとめたPart1は、ほぼどのような種類の・どのような性格の文章にも適用することができるものと言ってよいでしょう。
著者も、「多くの著者が『大切』だと説く7つのノウハウ。文章の目的を問わず、すべての人に必要な基本ルール」だと述べています。
文章には、いうまでもなくいろいろな種類があります。ビジネス文書・ブログ・論文・コラム・エッセイ、そして小説。それらすべてに共通するといえるルールと述べられているわけです。
第1位 文章はシンプルに
[Point]として、以下の3点が挙げられています。
1⃣ 余計な言葉はとにかく削って、簡潔に
2⃣ 1文の長さの目安は、「60文字」以内
3⃣ ワンセンテンス・ワンメッセージ
それをさらに著者はシンプルに一語で言い表しています。
「なくても意味が通じる言葉を削る」
これは、私は大賛成ですね。同じ言葉、同じような意味の言葉の繰り返しは避けるべきです。また、文脈から当然意味をすんなりとれる言葉は省いた方が絶対にすっきりと読みやすくなります。小説は違うのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私は小説も基本原則はこれでよろしいと考えています。
1⃣ 余計な言葉はとにかく削って、簡潔に
◇シンプルに書く2つの理由
(1)内容が伝わりやすくなる
無駄のない文章は読み手の負担を減らし、内容の理解をうながします。情報や言葉を思い切って削ぎ落とすと、
・主語(誰が)と述語(どうした)が近づくので、事実関係がはっきりする
・書き手の「短い文(文章)で正しく伝える」という意識が高まり、「もっとも適した言葉」を選ぶようになる
ため、書き手の主張がはっきりします。
(2)リズムが良くなる
1文を短くすると、「リズム感」が生まれます。ジャーナリストの池上彰さんは「短い文章を重ねることで、リズムが良くなるし、緊迫感も出てくる」(『書く力』/朝日新聞出版)と、短文の効用を述べています。
文字数の多い文(文章)ほど、文体の乱れが起きたり、文章の流れが悪くなりがちです。
したがって、削っても文章の意味が変わらない言葉は省略するのが基本です。
実用的な文章において、上記に異論はまったくありません。ぎりぎりまで削った方がよいです。
ただし、余計な言葉を省くのは、小説の文章でも言えることで、しかしその理由はことなるように私は考えます。
小説、あるいはエッセイなどもふくめ、これらの場合は何よりもリズムが大切。ジャーナリストの池上彰さんは実用的な意味で述べていますが、小説などの場合にはリズムは一つの命と言っても差しつかえないと思います。文章が単に伝えるツールを超えてそれ自体に価値を持つからです。
以上、私見を述べてみました。
◇削りやすい「6つの言葉」
(1)接続詞……「そして」「しかし」「だから」など
(2)主語……「私は」「彼が」など
(3)指示語……「その」「それは」「これは」など
(4)形容詞……「高い」「美しい」「楽しい」「嬉しい」など
(5)副詞……「とても」「非常に」「すごく」「かなり」など
(6)意味が重複する言葉
・まず最初に⇒最初に
・思いがけないハプニング⇒ハプニング
・馬から落馬する⇒落馬する
・はっきり断言する⇒断言する
・余分な贅肉⇒贅肉 など
この中で(6)は少し性格が違いますね。「削りやすい」というより削らないと間違いになる類。
それはさておき、これはあくまで、文章を書いたうえで、『削った方が意味もとりやすくてすっきりするかな?』と考えながら削るべきものですね。
ということをあえていうのは、ワープロ(機能)の使用が一般化して以来、独特の妙な文章が出やすくなっているからなんです(このことについいてはまた場を改めて)。
たとえば「主語」を削るといっても、そもそも「主語」がない文章などもよく見かけるようになりました。
接続詞も減ってきているように感じます。
あくまで、一度書いた文章で、意味の通る範囲で余分なものはないか、という観点で見てくださいね。
以上私見でした。
【ミサキのコラム】
ところで文章におけるリズムの重要性を口を酸っぱくして強調するのが花村萬月さんです。今、彼のリズムについて述べた文章を探したのですが、残念ながら見つかりませんでした。見つけたら補充いたします。
代わりに、エッセイ集『色』より。
「まとめる。虚構をつくりあげるということは、書くという行為が主体なのではない。嘘をつくこと自体が主体なのだ。書かれたものは、実は原稿用紙なりデジタルデータなりに定着される以前に脳裏に細部まで書かれている。たとえ言葉が細部まで確定していなくとも核であり繭であるものは、ゆるぎなく存在している。……」
内容もさることながら、この文章自体がダイナミックなリズム感で読ませますよね。
【ミサキのコラム】
では、近代文学屈指の美文、原民喜の文章はどう考えたらよいでしょう?
「陽の光の圧迫が弱まってゆくのが柱により掛かっている彼に、向側にいる妻の微かな安堵を感じさせると、彼はふらりと立上がって台所から下駄をつっかけて狭い裏の露次へ歩いて行ったが、何気なく隣境の空を見上げると高い樹木の梢に強烈な陽の光が帯のように纏わりついていて、そこだけが赫と燃えているようだった。てらてらとした葉をもつその樹木の梢は鏡のようにひっそりした空のなかで美しく燃え狂っている。と忽ちそれは妻がみたいつかの夢の極致のように彼におもえた。……」(「苦しく美しき夏」より)
「シンプルに」のポイントとはまったく逆の粘りつくような質感のある美文。
のちのち考察していきたいと思います。
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