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添削屋「ミサキさん」の考察|41|『文章の書き方』を読んでみた⑪
――匂いの表現について
香りの研究家、中村祥二氏(資生堂香料研究部長『香りの世界をのぞいてみよう』)における、匂いの分類。
〇他の感覚からの借りもの
味覚から――甘い、塩からい、しぶい
皮膚感覚から――あたたかい、つめたい、かるい、重い、ソフトな
視覚から――するどい、青くさい
複合感覚から――新鮮な、さわやかな
例・・・ペパーミントの葉を指さきでもむと、少し青くさく、かるく新鮮で甘い香りがひろがった。
〇……のような、という表現
バラのような、モモのような、薬くさい、あぶらくさい、磯のような、オゾンのような
例・・・キンモクセイの花は、モモとバラのような強い甘さの中に、青葉のような新鮮さと、動物のニオイのようなしつこさがまじっている。
〇情感、ムード
優雅な、上品な、女性的な、日本的な、現代的な、子どもっぽい、やさしい、清潔な
例・・・シャンプーしたあとの髪は、清潔でやさしい女性的な香りがしていた。
〇香料の専門的な用語を使ったもの
ジャスミン、オレンジフラワー、白檀、ムスク、バニラ、シナモン
例・・・いま、フランスで話題になっている香水は、白檀を中心に、ローズ、ジャスミン、スズランの花束の香りに、ムスク、バニラをくわえたはなやかで洗練された香り。
「例」にあるキンモクセイの香りの描写はすごいですね。もし自分が同じことをやろうとしても、どう表現したらよいのかはた、ととまどってしまいます。
「描写は(視覚だけでなく)五感でやること」とはよく言われますが、この五感を働かせてとらえるというのはけっこう難しいもので、とくに「匂い」「臭い」「香り」、つまり嗅覚にかかわるものは難しいと感じています。
さらに、辰濃さんは、石牟礼道子『椿の海の記』から、香りの表現をたくさん紹介しています。
大地の深い匂い、海の香り、樟(くす)の林の芳香、焼けた紅がらいもの匂い、濡れた山の匂い、松の脂(やに)の匂い、きのこがもえ出るような匂い、全山的に咲く花々の芳香、山野が放つ香気、海草の匂い、鯛のお椀のいい匂い、ナフタリンの匂い、朽ち葉の香り、黴の粉の立つような匂い、風呂帰りの妓たちの石鹸の匂い、干しいもの甘い日向くさい匂い、夕餉のあとの匂い、乾きあがらぬつづれの生干しの匂い、焼酎の匂い、土の匂い、土の乳を含んだ人参の芳香、完熟した堆肥の匂い、椿の絞り粕の香り、椿の実の煮汁の匂い、椿の実の白い煮汁の匂いに溶けこんだ髪の匂い、甘草(かんぞう)の根を煎じる匂い、摘んだ蓬(よもぎ)の若い芳香、稲の花のむんむんする香り、山脈(やまなみ)の彼方から渡ってくる風の芳香、足に乱れる野菊の香。
これが『苦海浄土』では鼻を突く臭気の描写に変わっていくわけですが、それはともかく、上のような豊かな香りの描写は、生活スタイルの異なる現代人にはなかなかに困難になってきているのかもしれないとも思いました。
そう考えると、現代は何と「匂い」とも「臭い」とも遠ざかっているのか。
いやいや、たとえそうだとしても、この描写は文章の鍛錬になることは間違いないと思います。
嗅覚は、五感のなかでもっとも原始的なものであるとも言われますね。
科学的にも、五感の中で嗅覚だけは唯一、「古い脳」である大脳辺縁系に直接伝わると解明されています。
「におい」によって深く眠っていた記憶や感情が鮮明に呼び起されるなど、嗅覚の本源性を思い知らされる体験は、誰でも思い当たることではないでしょうか。
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たとえば梅の香りを描写するとしたら、どうすればよいかなぁ?
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