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添削屋「ミサキさん」の考察|3|「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」を読んでみた③

ベストセラーになった「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」 (2021年1月12日発行・日経BP社・「文道」藤𠮷豊・小川真理子著)

|2|からつづく

もう少し私の独断でチョイスした例文を見てみましょう。

 捕らえられてから五日米軍の間で暮らして、やがてこの柵内で私と同じ境遇にある日本人に会い、一緒に暮すことを予告されながら、私の心がそれについて何の用意もしていなかったのはかなり奇妙なことである。
 死と顔を突き合わせていた叢林の孤独から不意に米軍の間に入り、私の心がかなり忙しかったのは事実である。しかし米軍の手厚い看護を受けつつ、私が絶えず敗者の屈辱を感じ続け、私の心が彼等に対して頭をもたげるのに費やされたとするのは、多分誇張にすぎるであろう。さらにこの共和国の軍隊の「文明」の雰囲気に浸って、私の心に何か快く喜ばされるものがあったのも否定出来ない。私は米軍の寛容に馴れ、むしろ彼等の賓客のような気持で、うかうかと自分が囚人であることを忘れていた。
 私が専ら観察をこととしていたのは、むしろ私の怠慢であった。

大岡昇平俘虜記』の一節です。大岡昇平というと、日本文学には珍しい極めて硬質で端正な文体が印象的です。
引用の一段落目は1文のみです。96文字ありました。
現代に比べ昭和中期くらいまでの文章は長めの印象がありますよね。
読者層が少数のインテリを想定していたことと関係があるのかもしれません(この辺りは私の勝手な推測です)。
かつこの作品はノンフィクションですし。
長いけれど、文章が上手いためか、あまり長さは感じませんでした。

 盛岡から釜石までは、山林の緑に囲まれた内陸の国道三九六号線を通って遠野市に出て、そこから海岸方面へ二八三号線を抜けていくことになった。遠野市は盆地になっており、稲が植えられる前の田んぼが広がっていた。峠を過ぎて釜石市内に入ると、いつもと変わらない小さな住宅や商店が並んでいる。商店が一様にシャッターを下ろしている他には、津波が押し寄せた形跡もなければ、地震で家屋が倒壊していることもない。内陸から向かっていたために、そう見えただけなのだが、西郷はほっと安堵した。

今度は文学ではない文章です。ルポライターの石井光太さんのルポルタージュ作品『遺体 震災、津波の果てに』(新潮文庫)の一節。
ルポルタージュ・ノンフィクションに関しては詳しく述べられませんが、文字数だけで見るなら、冒頭の一文がいちばん長くて67文字でした。ただ経路を伝えるような文章なので、長くても気にはなりませんね。
他の文章はやはり短めで端的な文章です。

 自己管理方策は、このようにクライエント自身が自分でこのプロセスを実行するのであるが、カウンセラーはその進行を管理し、各ステップごとにクライエントが自分で自己管理ができるように教えなければならない。そのアプローチは、一般に自己監視(セルフ・モニタリング)、状況の修正、及び行動の学習の3つがある。
 自己監視とは、ある具体的な行動や環境に対する反応を、クライエントが自分で自己観察することである。クライエントは、行動上の問題を観察し、それが起こる状況や環境を書きとめ、起こる頻度、程度、時期、それが継続する時間などの特徴を記録し、それに基づいて自己管理の計画を立てる。……

たまたま私が今読んでいるキャリアコンサルティングの教科書から引用してみました。『キャリアコンサルティング 理論と実際』(木村周著)。論文に近いですね。
冒頭の1文で99文字ありました。やはり論文は長くなる傾向があるのでしょうか。

 絵画、デザイン、舞台芸術、写真など、いくつものジャンルで活躍したマルチ・アーティスト、ロトチェンコ(1891ー1956)。ポスターはなかでも得意の分野。驚くほどの斬新さは今も世界中のデザイナーに影響を与え続けています。
 このポスターは国立出版社の発行するパンフレットや本を読み、勉強しようと一般大衆に呼びかけるもの。1917年の革命から5年経ち、ようやく落ち着いてきた時期の制作。革命直後の飢饉や物資不足を克服すべく、一部資本主義的傾向の復活を認めた時代で、国営企業の製品を買うよう訴えるポスターなどが集中的に作られています。詩人マヤコフスキーがキャッチコピーを書き、ロトチェンコがデザインを担当、徹夜作業で印刷まで一気に仕上げたといいます。……

いろいろな文章を探してみました。これは東京都庭園美術館が展示品について論じたパンフレットの一節です(「東京都庭園美術館ニュースNo.43」)。
何というか、要を得たてきぱきとした文章ですよね。いちばん長いところで74文字でした。やや長めの文章もこのような短い文章の中に入るとかえって文章全体を引き締め、アクセントになる効果があるように感じました。
まったくの私見ですけど。

|4|につづく



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仁矢田美弥|つなぐ、結ぶ、創る ミモザとビオラ
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